2006 Fiscal Year Annual Research Report
太平洋島嶼地域内の保健医療実践における「公平性」の理念に関する人類学的研究
Project/Area Number |
05J03913
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
倉田 誠 神戸大学, 総合人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 医療人類学 / オセアニア / ポリネシア / サモア / 医療制度 / 公平性 / コミュニティ・ケア |
Research Abstract |
本年度は、ニュージーランドの国立図書館、及び国立公文書館での1週間に及ぶ史料収集を行った。そこで収集した史料は、以下の3つの関連に分けられる。 (1)ニュージーランド統治期のサモアにおける地域医療の展開と住民の組織化に関するもの (2)ニュージーランド統治期のサモアにおける現地人医療スタッフの育成に関するもの (3)ニュージーランド統治期から現在に至るまでのオセアニア地域における地域協力と国際援助に関するもの 調査の結果、ニュージーランド統治期のサモアでは、住民の組織化や他のイギリス領との間で地域協力体制の確立を行うことで、全域的な近代医療サービスの導入が進められたことを裏付けることが出来た。 サモア社会では、領域人口の小ささゆえに、比較的早い時期から他のイギリス領との協力下での現地人医療従事者の育成と保健医療政策の決定が行われてきた。このような歴史的経緯を踏まえることで、次の点が明らかになった。 まず、サモアの医療制度は、当初から外部からの人材と資金の補充を前提とする非-自己完結型の制度として構築されてきた。そのため、国際的な協力の枠組みの変動や後退によって大きな影響を被る立場にある。近年のグローバル化は、住民に自分たちが享受している保健医療サービスの状態を国家や地域を超えた関心のもとで見つめ直す機会を与える一方で、国家間の協力においては、「小さな政府論」に代表されるように、被援助国に福祉国家的なスタンスを後退させることを迫る事態を生んでいる。サモア政府は、NGOや村落組織を中心としたコミュニティ・サービスを奨励することで、医療費の抑制を図ろうとしている。太平洋島嶼地域における「公平性」をめぐる関心は、このような事態を背景として高まっている。 本年度は、これまで述べたようなサモアにおける医療制度の成立過程と国債関係における福祉国家モデルの位置付けを念頭に置き、サモアにおける精神科医療の導入過程とその変遷に絞って、国際学会(日本多文化間精神医学会・世界精神医学会多文化間精神医学部門・世界文化精神医学会の合同研究大会)で発表を行った。
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