2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J04172
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山本 貴 独立行政法人理化学研究所, 加藤分子物性研究室, 特別研究員(PD)
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Keywords | 負圧誘起相転移 / 脆弱性物質 / 分子性導体 / 金属-超伝導-絶縁体転移 / 電荷整列 / 輸送現象測定 / 振動分光学 / 有機伝導体 |
Research Abstract |
分子性導体の分子間距離を増大させることで、相転移を誘起する研究は、物質自体の脆弱性ゆえにほぼ皆無である。加圧しても金属的性質しか示さない物質を、加圧とは逆の負圧によって、超伝導相や電荷整列相(絶縁相)に誘起できる点において魅力的である。そこで、脆弱で取り扱いの難しい試料を、強制的に引張る機構を開発し、これまでに無い相転移の探索を目指している。 本年度は、負圧下での抵抗率測定の機構の開発に多くの時間を割いた。採用した機構は、分子性導体を鉄アレイ型樹脂棒に封入し、径の変わる部分にて力を印加する手法である。力を保持するための冶具の材料も、金属ではなく、樹脂を採用した。試料周りを総樹脂製にしたことで、冶具と樹脂棒の熱収縮率の差による試料棒の破断を避け、ヘリウム温度以下まで測定できることを見出した。 作成した冶具を用いて、低温で金属-絶縁体転移を示すTTF-TCNQ塩・θ型ET塩・d8-Me_2DCNQI銅塩の負圧下抵抗率測定を行った。その結果、絶縁化の促進や、再金属化といった現象を観測した。これらの塩は、電気伝導の次元性が1・2・3次元とそれぞれ異なるものの、いずれの現象も異方的な負圧の立場から説明できる。更に、試料棒に印加される力と伸びの関係を求めた。その結果、観測された抵抗率の変化はわずか数十bar程度で誘起できることが分かり、負圧は加圧よりも効果的に変化を引き出せることが判明した。 来年度から、電荷整列相近傍の分子性導体を中心に負圧誘起超伝導転移の観測を行う予定である。その準備として、ET塩・BETS塩・dmit塩の赤外・ラマンスペクトル測定と、基準振動解析を行った。その結果、幾つかの塩が電荷整列相であることを示した。ET塩の金属-絶縁体転移は、最近接クーロン力に要請される複数の電荷整列構造間の共存状態から再安定な整列構造への転換であることが判明した。
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Research Products
(2 results)