2006 Fiscal Year Annual Research Report
森林衰退を防ぐためのシカの管理が引き起こす、絶滅の連鎖に関する実証的研究
Project/Area Number |
05J04362
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
田渕 研 独立行政法人森林総合研究所, 北海道支所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 生物間相互作用 / 昆虫群集 / シカ / ササ / タマバエ / 大台ヶ原 |
Research Abstract |
本研究の目的は,シカの食害によって波及していく生物間相互作用の実態を明らかにし,生態系全体を考慮した森林再生手法を提言することである.調査はシカによる森林衰退の著しい大台ヶ原(奈良県上北山村)で行った.本研究ではササに依存する生物群集のモデルとして,ミヤコザサ(以下,ササ)に虫こぶを形成するミヤコザサフシコブタマバエ(以下,タマバエ)とその寄生蜂2種を扱い,シカの食害が生物間相互作用を介してこれらの種に波及していく実態とその因果関係を,野外での操作実験により解明する.これまでの調査から,柵でシカを排除すると(1)ササは大きくなって密度が減る,(2)タマバエのゴール密度は減るが生残数は増える(大きなササではゴール壁が厚くなり寄生蜂から逃れられる),(3)寄生蜂2種の種構成が逆転することが明らかになった. 本年度は,シカがタマバエの適応度に及ぼす間接効果とその原因を検証するために,(a)ササ密度一定での袋掛け産卵実験,(b)大小のササを用いたタマバエの産卵選好性実験,(c)大小ササ内のタマバエ幼虫体重の計測を行った.ササの硬さ分析から,大ササは小ササより硬く,ゴール形成に物理的抵抗性があることが示された.(b)タマバエは(ゴール形勢に不利な)大ササにより多くの産卵行動をとった.(c)大ササに形成されたゴールではタマバエ幼虫の体重が重かった.これらの結果を総合して考察すると,シカはゴール形成に適した小さく柔らかいササを増やすが,小ササに形成されたゴールは天敵による攻撃を受けやすく,結果としてタマバエの適応度を減らす(シカがタマバエの適応度に負の間接効果を与えている)ことが明らかになった.また,タマバエはゴール形成に適さないが天敵から逃れやすく,成長に適した大ササを産卵場所として選好することが明らかになった.
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Research Products
(3 results)