Research Abstract |
北海道各地の沿岸部にはカシワとミズナラの交雑帯が形成されている。一方,ナラ類は多種から構成されるタマバチ群集の寄主植物である。本年度の研究では,交雑由来のナラ類の遺伝変異が,タマバチ群集の構造に及ぼす影響を明らかにした。 まず,北海道沿岸部において,ミズナラとカシワが同所的に生育する地域を選定し,8地点の調査地を設定した。また,対照地域として,ミズナラまたはカシワのみが生育する調査地を各1地点設定した。各調査地において,海岸線に近い部分,内陸に近い部分,およびその中間にベルトトランセクトを設定した。 次に,ミズナラとカシワの種間雑種の存在を確認するため,トランセクト内に生育するナラ個体について,カシワ,ミズナラ,雑種個体を葉の形質にもとづいて判別した。その結果,ミズナラとカシワが同所的に生育している地域においては,両種の中間的な葉の形態を持ったナラ個体,すなわち雑種と推定される個体が確認された。したがって,これらの地域はミズナラとカシワの交雑帯であると考えられる。 また,ミズナラ〜雑種〜カシワの遺伝的勾配に対するタマバチ類の反応を明らかにするため,トランセクト内のナラ個体から枝葉を採集し,出現したタマバチ種を記録した。そして,判別された樹種グループ(ミズナラ,カシワ,推定雑種)間で,タマバチ群集の種数,種構成,各種のアバンダンスを比較し,そのパターンの地域間の共通性を検討した。その結果,タマバチの種数の多い樹種グループは地域間で一貫していないこと,および,タマバチの種構成には樹種グループ間で明瞭な違いのないことが明らかとなった。しかしながら,一部のタマバチ種は,特定の樹種グループに多く出現した。したがって,タマバチ群集の構造に対するミズナラとカシワの種間交雑の影響は強いものではなく,一部のタマバチ種に対する感受性を通じて,部分的に作用するものであると推察される。
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