Research Abstract |
植物の交雑帯では,植食性昆虫の形質や捕食者の利用資源など,群集の機能構造が多様化すると考えられる。ゴールの形質は,形成者と寄主植物の形質の相互作用によって決定される。植物の交雑帯では,種間交雑により寄主植物の形質が多様化することから,同一種のゴールの形質も多様化することが予想される。本年度は,この仮説を検証することを目的とし,以下の研究を実施した。 ミズナラとカシワの同所的に生育する調査地として5地域を,交雑の生じない調査地(純林)としてミズナラ純林1地域,カシワ純林1地域を選定した。各調査地にトランセクトを設置し,トランセクト内に生育するナラ類個体の葉形態の定量化により,各調査地におけるミズナラとカシワの交雑頻度を推定した。各調査地の林縁で優占的なタマバチの一種のゴールを採集し,その形質の調査地間変異を解析した。 ミズナラとカシワの交雑頻度は,調査地間で異なっていた。 葉あたりゴール形成数の頻度分布は,ミズナラ純林と他の地域の間で異なっていたが,交雑帯とカシワ純林の間では,明確な違いは検出されなかった。ゴールの集中度およびサイズには,地域間の有意な差は認められなかった。一方,ゴールの各形質について変動係数を算出し,地域間で比較したところ,葉あたりゴール形成数について有意差が認められた。しかしながら,そのばらつきの大きさと各調査地の交雑頻度の間には,相関はみられなかった。 以上のように,「植物の交雑帯ではタマバチ種の形質も多様化する」という仮説は棄却された。このことは,寄主植物の形質の種間差以外に,ゴールの形質に影響を及ぼす要因が存在することを示唆している。また,ゴールの形質は,タマバチ類を寄主する寄生蜂複合体の構造に影響を及ぼすことが知られているが,本年度の結果から,ゴールの形質の多様化という観点からは,ナラ類の交雑が寄生蜂複合体に及ぼす影響は弱いものと推察される。
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