Research Abstract |
北海道各地の沿岸部にはカシワとミズナラの交雑帯が形成されている。交雑帯において,植食者に対する親種・雑種間の化学的防御レベルの変異は,生物群集の構成に影響を及ぼしているものと予想される。そこで本年度の研究では,この影響を検討するために,ミズナラ・カシワ交雑帯とゴール形成タマバチ群集に注目し,(i)親種・雑種におけるタンニン濃度を定量化して,(ii)これとタマバチ類の群集構造との関係を検討した。 北海道沿岸部において,ミズナラとカシワが同所的に生育する5地域を調査地として設定した。また,ミズナラまたはカシワのみが生育する調査地各1地域を設定した。そして,各調査地につきナラ類20〜30個体から試料を採集し,タンニンによるタンパク質沈殿能をタンニン酸当量として定量化した。また,試料中に出現したタマバチの種と密度を記録した。 葉中のタンニン濃度は地域間,樹木個体間で異なっていたが,樹種カテゴリ(ミズナラ,カシワ,推定雑種)間の差は有意ではなかった。このことから,ミズナラとカシワの種間交雑は,タンニンによる化学的防御レベルに関与していないものと考えられた。 タマバチ類の種数,種構成ともに,同一地域における樹種カテゴリ間の違いは明確ではなかった。タンニン濃度とタマバチの種数の関係についてみると,地域レベル,樹木個体レベルいずれにおいても両者間に相関は認められなかった。一方,タマバチ類の種構成の類似度とタンニン濃度の間には,地域レベルでは明瞭な関係は認められなかったものの,樹木個体レベルでは,一部の地域において,両者間に相関が認められた。また,各地域における優占種の密度とタンニン濃度との間には,明瞭な関係はみられなかった。 以上のような,種間交雑-タンニン-タマバチ群集間の関係の弱さは,タマバチ類の群集構造に対してより大きく影響する,他の因子の存在を示唆している。
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