2007 Fiscal Year Annual Research Report
先秦から秦漢時代における「中国」地域観念の形成に関する研究
Project/Area Number |
05J04498
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡邉 英幸 Tohoku University, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中国 / 古代史 / 華夷思想 / 夏 |
Research Abstract |
平成19年度の研究実績は以下の通りである。 論文「秦律の夏と臣邦」は戦国時代の秦国が法律上で定義した「夏」概念を分析・復元したものである。その結論は、戦国秦が、自国民(「秦」)以外の多様な人々を「臣邦」という統治方法で把握した上で、「臣邦」の君主どの政治的な統属関係を「夏」と概念化し、また「臣邦」に降嫁した秦人女性の子を「夏子」と認定することで、「秦」-国を超えた統合の枠組みを構築していたことを明らかにした。従来の研究では、この「夏」の解釈がかなり分かれていたが、本論の結論によって、これを整合的に理解することができ、さらに先秦時代の〈中華〉論から秦漢時代の〈中華〉論の中に当該資料を位置づける手掛かりをえられたものと考える。 また、秦律よりも遡る事例として、春秋時代の秦の青銅器銘文に見える「蛮夏」なる語句を検討し、その結果を2007年5月に山形大学で開催された東北中国学会にて口頭発表した。これは先秦期の「夏」という〈中華〉概念が、周王室の本拠地を「禹責(績・跡)」と見なす意識に淵源を持ち、それが春秋時代に周系の諸侯国に拡大したこと、そして春秋期の秦の君主が、自国を「禹責」に都を構えつつ、自国周囲の「蛮」諸国と東方の「夏」諸国の双方に君臨するという自己意識を有していたことを解明したものである。この検討により、戦国秦律の「夏」概念が、自国を中心とする春秋時代の自己意識を継承しつつ、戦国時代の統治構造に即した形で「夏」を再編したものであったと位置づけることができた。さらに2008年1月には、東北大学で開催されたアジア社会研究会で、先秦時代の、〈中華〉・〈夷狄〉論全体についての概括を行い、両者の境界言説の多様性や、両者の間の重層的な関係についての報告を行った。 以上の口頭発表した内容は、現在執筆中の著書の中に含める形で、公表に向けて準備を進めている。
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Research Products
(3 results)