2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J04519
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
京極 俊明 東北大学, 大学院・国際文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | オーストリア / 民族問題 / 教育言語問題 / チェコ / ドイツ / ハプスブルク / 多言語地域 / ナショナリズム |
Research Abstract |
本年度は、課程博士論文『多言語地域におけるナショナリズムと言語・民族問題-ブルノ市の初等教育問題を通じて-』の執筆にほぼ専念した。課程博士論文は4章構成であり。第1章では1870年代のモラヴィアにおける初等教育政策について検討した。ここでは従来の「ゲルマン化」説を否定し、モラヴィアの教育政策の寛容性を示した。次いで第2章では、ブルノ市におけるチェコ系結社「ブルノ学校協会」による「少数民族学校」建設運動について検討し、その支持基盤、活動について明らかにした。本章の成果は、「ブルノ学校協会(Brnenska matice skolska/(Matice skolska v Brne)」による「少数民族学校」建設運動(1877-1889)」として、『東欧史研究』2006年掲載予定である。第3章では19世紀末から20世紀初頭における民族対立の先鋭化現象を分析した。モラヴィアのチェコ系住民の学生がプラハへ進学し始めたことは、急進的なナショナリズムの浸透につながった。これに対抗してブルノ市のドイツ系住民の民族的結集が進行した結果、民族対立が1880年代とは異なり世界観闘争の様相を呈したことを示した。第4章では言語能力に基づく入学制限を課した「ペレク法」について扱った。同法の施行過程で作成された史料を検討した結果、「混交言語」や、ドイツ人でもチェコ人でもない「ブルノ人」の存在が示された。この「ブルノ人」とは、民族よりも地域を重視し、ドイツ語とチェコ語を使い分ける人々であった。このような集団の存在は、「国民史」の枠組みでは捉えきれない。本研究は、多言語地域の民族問題を検討していく上で、民族の論理とは距離を置く人々が存在し、ドイツ・チェコの二項対立に還元されえない多様な実態が存在していたことを示した。従来の「国民史」を脱却し、新たな視点から多言語地域の民族問題を検討することは、現在の多文化共存の問題を考察する上でも必要であろう。
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Research Products
(1 results)