2005 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属化合物に於ける軌道自由度の乱れの効果とその観測理論
Project/Area Number |
05J04946
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 孝佳 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強相関電子系 / 軌道秩序 / 希釈効果 |
Research Abstract |
遷移金属化合物を代表とする強相関電子系に於いては、そこに含まれる遷移金属イオンの3d及び4f軌道の縮退が結晶内でも残り、縮退に基づく軌道の自由度が諸物性に大きな影響を与えることが知られており、軌道秩序や軌道励起の研究が盛んに行われている。この様な中で最近軌道秩序状態に対する希釈効果の実験がKCu_<1-x>Zn_xF_3で行われた。この実験によると不純物の導入と共に軌道秩序温度が減少するが、磁気秩序における不純物の導入と比較して秩序温度の減少が著しいことが示されている。磁性体では不純物濃度70%まで長距離秩序が存在するが軌道秩序では不純物濃度50%程度で長距離秩序が消失する。本研究では、KCuF_3に於ける軌道秩序がZnの導入によって崩壊する様子について理論的研究を行った。ここでは特に磁性体における希釈効果との相違に着目し、共鳴X線散乱により得られている実験結果との比較検討に焦点を当てた。秩序温度の希釈濃度依存性を調べるために解析的な計算手法と、数値的なものとを用いた。数値的方法として古典モンテカルロ・シミュレーションを用いた。数値計算の結果、軌道自由度の希釈による軌道秩序温度の減少は磁性体と比較して非常に顕著であり、軌道の長距離秩序は不純物濃度15%程度で消失することが分かった。これは磁性体と異なり不純物周囲では軌道の形が乱されることに起因している。本計算結果は実験により指摘された軌道秩序の希釈効果と磁気秩序とのそれが異なることを定性的に説明するものであり、軌道希釈と磁気希釈の違いの起源を明らかにしたものである。これに加えて古典モンテカルロシミュレーションで考慮されていない量子効果を取り入れるために、解析的方法であるクラスター展開による秩序温度の計算を行った。系の量子効果を取り込んだこの計算では、軌道の長距離秩序は不純物濃度50%で消失することが示された。軌道自由度の希釈効果をより定量的に調べるためには、量子効果を十分考慮に入れなければならないと考えられ、現在は量子軌道モデルの一つである軌道コンパスモデルを用いて、その希釈に対する量子効果の役割を調べている。
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Research Products
(1 results)