2006 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属化合物に於ける軌道自由度の乱れの効果とその観測理論
Project/Area Number |
05J04946
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 孝佳 東北大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 遷移金属 / 軌道自由度 / 量子軌道系 / 乱れの効果 |
Research Abstract |
今年度は、まず軌道系における量子効果を明らかにするために軌道コンパスモデルと呼ばれる2次元量子軌道模型について量子モンテカルロ・シミュレーションによる数値的解析を行った。その結果、希釈による長距離秩序の乱れ方が軌道系とスピン系で、また古典系と量子系で大きく異なることが分かった。特に前者に関しては希釈による長距離秩序温度の減少は量子系ほうが古典系のそれよりも緩やかなことが見出された。これは量子系においては量子揺らぎが加わることで長距離秩序を阻害するという通常の性質とは異なった性質であり、軌道系に特有なことである。このことは以下のように解釈できる。軌道自由度間の相互作用は方向に依存し、特殊な対称性を持つので系の有効次元が下がる。しかし、量子揺らぎはこの次元性の低下を緩和し希釈に対して軌道の長距離秩序を維持する。その結果、古典系に比べて希釈による長距離秩序温度の減少が緩やかになると解釈できる。 次に、t_<2g>軌道系の量子軌道状態に対する数値計算を、ループアルゴリズムによる量子モンテカルロ・シミュレーションによって行った。t_<2g>軌道系は例えば、系は三次元であるがd_<xy>軌道の占有数がxy平面内で保存するなどの特殊な対称性を持つ。この様な対称性のため、基底状態でorbital liquid状態などの特殊な量子軌道状態が実現しているという主張が理論的にも提唱されている。このことをふまえて本研究ではt_<2g>軌道系の軌道状態に対する数値計算を行った。その結果、ある特徴的な温度までは温度の低下と共に軌道間の相関が強まり、秩序変数も増大するが、その温度以下では軌道相関関数はむしろそれは減少すること、同じ温度で比熱や感受率なども極大値となるがサイズ依存性が殆ど無いこと、また秩序変数の極大値はサイズと共に単調に減少することを見出した。これらについて調べるために、長距離サイト間の相関関数を計算してみると二次近接サイト間相関関数までは温度について単調増加だが、三次近接以上の相関関数はある特徴的な温度で減少することが明らかになった。これはt_<2g>軌道系は低温において通常の長距離秩序を示さず、短距離相関のある量子状態になっているものと解釈される。
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