Research Abstract |
本年度はプラズマ化学気相堆積(CVD)法を用いて,単層カーボンナノチューブ(SWNTs)の構造,主に成長方向を制御する研究を中心に行った. 1.下部電極にメッシュ状のグリッド板を用いた平行平板,容量結合型高周波放電装置を構築し,プラズマ中の荷電粒子の挙動が比較的穏やかであるプラズマ拡散領域を利用したプラズマCVD装置を開発した.ナノチューブの成長に炭素源として使用されるメタン水素混合ガスを用いた場合,下部電極から,70mm拡散した領域で電子温度が0.2eVまで低下(コア領域では2.5eV)することをラングミュアプローブ法により明らかにした.また,電子温度の低下とは対象的に電子密度は10^8cm^<-3>程度と拡散距離の増加にかかわらずほぼ空間的に均一であることも確認された.基板に流入するイオンのエネルギーの下限は一般的に空間電位と浮遊電位の差,つまり電子温度によって決定されることを考慮に入れると,本年度行った装置開発及びプラズマ基礎特性の評価により,プラズマプロセスで問題となる基板に流入するイオンエネルギーを極端に低下させつつ,かつプラズマプロセスに十分といえる程度のプラズマ密度を維持したプラズマ源が開発されたと言える. 2.上記1で開発した拡散プラズマCVD装置を使用することにより,従来本研究で使用していた,触媒担持の粒子状物質であるゼオライト上にではなく,シリコンをベースとした平面基板上に孤立・垂直配向成長したSWNTを成長させることに成功した.この平面基板上に詳細に成長方向が制御されて形成された孤立SWNTsは,ナノ電子デバイスやSWNT内部への高効率原子/分子内包プロセス等において大きな貢献が期待される.これらの応用研究は次年度行う予定である. 3.孤立した一本のSWNTsを垂直に配向成長させるという成長方向制御に,プラズマの効果がどの程度関与しているかを明らかにする目的で,プラズマ中のシース電場を数値計算によりもとめ,シース電場によりSWNTsに誘起される回転エネルギーと,配向を阻害する熱振動エネルギーとのエネルギーバランスを比較した.その結果,拡散プラズマのプラズマシース電場によって誘起される回転エネルギーが熱振動エネルギーに比べ2桁以上大きいことが分かった.このことから,本拡散プラズマ中のシース電場がSWNTsの成長方向を制御する上で十分な効果をもたらすことが定量的に明らかにされた.この結果を受け,今後SWNTsの電気特性の違い(金属的あるいは半導体的)による配向度の差異を明らかにしていく予定である.
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