Research Abstract |
セラミックスは様々な優れた性質を有するために幅広い分野での応用が期待されているが,破壊靱性が低い.このため,微小な欠陥の存在が信頼性を低下させ,セラミックス部品の応用が制限されているのが現状である.セラミックスの欠陥は加工時に生じる表面き裂と焼結過程において形成される内部欠陥の2つに分類される.これらの表面及び内部欠陥に起因するセラミックスの低信頼性を克服するためには,それぞれ治癒能力の付与及び保証試験法が有用である.本研究では,曲げ強度の温度依存性が大きい材料の信頼性保証に対して,(き裂治癒+保証試験)理論が有用であるか否かを検討するために,き裂治癒能力に優れ,さらに内部欠陥を多く含むAl_2O_3/SiC粒子複合材を焼結した.この焼結体よりJIS規格に従った3点曲げ試験片を作製した.この試験片に対して,ヴィッカース硬度計を用いて強度を50%以上低下させる半楕円形状の予き裂(表面長さ:約100μm,アスペクト比:約0.9)を導入し,その後き裂を治癒した.き裂治癒を施した試験片に対して室温で保証試験を行い,保証される最低破壊応力(保証応力)の温度依存性を検討した.その結果,次のような結論が得られた. (1)ワイブル統計におけるき裂治癒材の破壊確率30%に相当する応力において,予き裂材は全ての試験片が破壊する.また,JIS規格に従った試験片でも約80%がこの保証試験で破断する.このことから,き裂治癒現象を利用することにより,保証試験時の生き残り確率が大幅に向上し,高い保証試験応力を採用することが出来る. (2)き裂治癒材に対して室温で保証試験を行った.その保証試験通過材の最低破壊強度は大きな温度依存性を示し,温度が上昇するにつれて低下した.しかし,保証試験通過材の各温度での最低破壊応力は推定された保証応力と良い一致を示した.(き裂治癒+保証試験)を利用した高温での保証試験理論は,固有の曲げ強度の温度依存性が大きいAl_2O_3/SiC粒子複合材に対しても適用可能であった. (3)1373Kでき裂治癒を行い,その後室温で保証試験を行ってから,き裂治癒温度である1373Kで最低破壊強度を評価したところ,実験値と推定された保証応力とは良い一致を示した. (4)高温域で保証試験を行い,その保証試験通過材の最低破壊強度を室温で評価したところ,得られた最低破壊応力は,推定された保証応力と良い一致を示した. 以上のような結論より,き裂治癒部が母材部と同等以上の強度を有している限り,(き裂治癒+保証試験)理論で与えられる最低破壊応力は,き裂治癒温度,保証試験温度あるいは破壊試験温度に依らず妥当なものであると結論された.
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