2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J05681
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小川 浩史 立命館大学, 大学院先端総合学術研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | アイデンティティ / 主体 / 歴史と記憶 / エジプト民族主義 / 革命の哲学 / ガマール・アブドゥン=ナーセル |
Research Abstract |
本年度の研究実施計画では、(1)アラブ民族主義の担い手となるガマール・アブドゥンニナーセルの諸活動形態を歴史的に記述したうえで、(2)ナーセルの民族主義的な言説を実際に分析し、「アラブ民族主義」における主体構築の実態を解明することを目標とした。当初予定していた、学生運動から自由将校団の結成、そして革命へと続くナーセルの民族主義運動の展開を国民国家が制度的に確立していく歴史過程の中に理論的に位置づける作業((1))や、「エジプト民族主義」から「アラブ民族主義」への「アイデンティティ」変容を分析する作業((2))を完成することはできなかったが、ナーセルの著作『革命の哲学』の第1節と第2節に焦点を絞り、それが執筆された政治状況と、そこに記されたナーセル自身の経験と記憶の背景にある個人史を踏まえることで((1)に対応)、『革命の哲学』がエジプト国民の歴史的主体性(ナショナル・アイデンティティ)の構築を目的としていたこと、さらに、その主体構築は個人(ナーセル)の経験と記憶を国民史に統合することで達成されていたことを明らかにした((2)に対応)。これまで中東地域の多様な民族主義運動を理解するためにモデル化されてきた「アイデンティティ複合」論は、「エジプト」、「アラブ」、「イスラーム」といった民族性を固定的な「アイデンティティ」の複合状況として捉えてきたが、筆者は、それらの「アイデンティティ複合」を「民族/国民」の「時間(歴史)と空間(境界)」の構築/再構築の問題として捉えなおす必要を主張した。本年度の研究成果では、「アラブ」や「イスラーム」を含めた「アイデンティティ複合」状況の解明には至っていないが、経験や記憶、文化(=特殊性)を再解釈によって絶えず国民史に統合しようとする「エジプト・アイデンティティ」の一般的機能を明らかにすると同時に、そのような機能を担うナーセルの言説自体の歴史的な特殊性を指摘した。
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Research Products
(1 results)