2006 Fiscal Year Annual Research Report
音楽から見た歌舞伎-明治時代における歌舞伎の古典化と陰囃子の変遷-
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05J05770
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
土田 牧子 東京芸術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 日本音楽 / 歌舞伎 / 三味線音楽 / 明治 / 劇音楽 / 日本近代 |
Research Abstract |
これまでの研究を、博士論文「明治時代における歌舞伎陰囃子の研究-近代化と古典化-」としてまとめた。論文の概略を以下に記す。 論文の目的は、陰囃子の分析により、(1)明治時代の陰囃子演出に見られる時代的な特色を解明すること、(2)明治時代の陰囃子が後世に及ぼした影響と現在の陰囃子の定型が確立した時期を明らかにすることである。 (1)については、明治の新しい歌舞伎ジャンルである活歴と散切物を対象にした。活歴においては全く異なる陰囃子演出がどちらも活歴らしいと認識されている点に特徴があり、それはめまぐるしく変化する明治の時代性を反映していると考えられた。散切物においては、江戸時代以来の曲目と文明開化を象徴するような音(汽笛や軍隊のラッパ等)が混合して用いられているところに最大の特徴があり、それが散切物の魅力の一翼を担っていたと推測した。(2)については、江戸時代以来の歌舞伎ジャンルである義太夫狂言と世話物を対象にした。両者ともに、幕末から現代にいたる陰囃子の変遷をたどったが、いずれのジャンルにおいても明治後期以降に陰囃子演出が定型化する傾向が見られ,影響力のある俳優の存在と上演回数の増加が、歌舞伎自体が急速に古典芸能化した時期と重なって、陰囃子の定型化を含む型の固定化が起こったというメカニズムが解明された。また、いずれも幕末の陰囃子演出と現行のそれとは大きく異なっており、連綿と継承されて来たという錯覚しがちな義太夫狂言の型や、江戸情緒があふれるという評価が定着している世話物の音楽演出は、多分に近代以降の産物であることが明らかになった。 歌舞伎は明治中期以降に古典に回帰したといわれているが、その時点での古典は近代を経験して新たに創り上げられた古典であったことは疑いもない。上記の陰囃子の分析結果は、歌舞伎の古典や伝統といったものが近代化の経験の上に成立していたということを十分に表していると結論づけられる。 なお、論文の執筆と並行して行った付帳の資料調査は、論文の付録「早稲田大学演劇博物館・国立劇場所蔵 陰囃子付帳一覧」として提出した。この調査により、現存付帳の全体像が把握できただけでなく、これまでに解明されていない明治時代の歌舞伎囃子方の動向が明らかにされる可能性が高まった。
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Research Products
(2 results)