2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J05909
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
安徳 万貴子 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ホーフマンスタール / 『チャンドス卿の手紙』 / 『塔』 / 生と言語の結合 / 弁明 / 言語の中の思考 |
Research Abstract |
本研究の目的はホーフマンスタールにおける「生と言葉」の関係を明らかにすることにあり、本年度は主に著者の言語観を捉える上で最も重要な『チャンドス卿の手紙』について研究論文を発表した。この作品を境に、それ以前の著作に散見された言語に対する問題意識が中心的課題として形をとり、後の創作活動全体を突き動かす根源的動因となる。先の研究計画で考察対象に挙げた文学論、講演の中で、著者は言語のあるべき姿、使命について述べている。それゆえこれらの言説が著者の最終的結論であるかに思われる。しかし著者の言語認識を構成する諸要素は、一見言語自体を主題としていない劇、物語、小説等においてこそ緊密な連関を保ち、その相互関係の中でのみ十全な内実を獲得するのである。特に最晩年の『塔』の登場人物の生は、まさに言語をめぐる諸要素によって決定される。『チャンドス』において問題となった、言語における時間の超越、肉体を根源とする詩の精神的言語、仮象と真理の不可分性、神と被造物としての人間の関係が、『塔』の登場人物の運命を左右することになる。 ホーフマンスタールの創作全体は、生と詩的言語を融和する努力によって貫かれている。生と言葉の対立を「言葉を生きる」ことによって克服しようとする、単純かつ最も困難な試みは、ほかならぬ作品内部において実現される。『チャンドス』において、言語は既に形作られた思想の伝達手段でなく、その内部で語り手の自己認識、世界認識を生み出す媒体となる。『塔』の人物の言語形態はそれぞれの存在の特質を表す。自己の生についての「弁明」と神の裁きという二作品に共通する主題は、初期作品から常に形を変えて現れ、著者の言語観の核心をなしている。ホーフマンスタールの創作を言語認識という観点から概観するために、「弁明」を生と言葉の結合を目指す言語的行為として意味づけ、その重要性を明らかにしたことが本年度の研究の主眼である。
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Research Products
(1 results)