2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J05909
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
安徳 万貴子 九州大学, 大学院人文科学研究院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ホーフマンスタール / 言語 / 『塔』 |
Research Abstract |
本年度は、ホーフマンスタールの集大成である『塔』と、作者の言語に対する問題意識との連関を考察し、その成果を九州大学独文学会第20回研究発表会(2006年4月、九州大学)で口頭発表した。(題目:ホフマンスタール『塔』最終稿における生の「証言」)『ある手紙』を契機として顕在化する言語に対する問題意識は、その後の作者の創作活動全体の根源的動因となる。晩年の『塔』は一見、第一次大戦後の混沌とした世界状況を暗示している。しかし、国家権力による主人公の拘禁、革命、旧秩序の解体と新秩序の待望といった諸要素は、いずれも根底において言語的諸問題と緊密に結びつく。その結びつきを読み解きながら他の作品の言説との連関を捉えることにより、作者にとっての<言語>とは何かを問うた。 上記の口頭発表で明らかにしたのは、ホーフマンスタールの作品において言語が内包する二つの可能性-権力の基盤となる可能性と、真理を間接的に指し示す可能性-である。<権力手段としての言語>という問題は既に『痴人と死』にも見られ、後の『気難しい男』や『塔』にまで脈々と引き継がれる。言語と権力の結びつきは『塔』全体に浸透し、人物たちの世界観を様々に特徴づける。そのようにして、作品を通して言語そのものに内在する問題の広がりが開示されてゆく。しかし、言語が不可避にもつ否定性の深みが認識されることにより、逆説的に言語を通してのみ指し示されうる領域の存在が浮かび上がる。この反転が作品内部でいかに展開されるかを考察し、日本独文学会秋季研究発表会(2006年10月、九州産業大学)のシンポジウム「ドイツ近代文学における<否定性>の契機とその働き」において口頭発表した。本論は2007年に同学会から研究叢書として出版される。(題目:『ある手紙』から『塔』へ-ホーフマンスタールにおける<否定性>の契機とその展開)
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