2005 Fiscal Year Annual Research Report
周作人の北京生活と東京の記憶-周作人の文化観念の形成について
Project/Area Number |
05J06172
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
鳥谷 まゆみ 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 周作人 / 都市 / 生活 / 趣味 / 文化 / 日本 / 茶 |
Research Abstract |
周作人は、北京や日本を「第二の故郷」と呼び、北京が動乱の時期においても離れる事無く、そこに住み続けた。1924年前後からは、都市の日常に取材した小品文を多く執筆している。なかでも、飲食文化を主として描いた「故郷の野菜」、「北京の茶食」、「喫茶」(共に1924年発表)は、珠玉の作品として名高い。そこで、この三作品を中心に分析を施し、周作人の文化や趣味、そして、彼にとっての日本の記憶といったものが、「生活の芸術」という独自の思想形成に影響したことを明らかにした。周作人が日本の飲食文化、なかでも茶道の中に存在する「苦中作楽」といった精神的な境地に、関心と共感を覚え、それを規準に北京文化批判を行い、自身の趣味的な生活を追い求めていたのである。本研究の過程において、谷崎潤一郎が周作人を評価した文章の初出を発見することができたことは幸いである。 周作人の「都市」への眼差しの中に、独自の理想とする趣味的な生活の一側面を解明することができた。具体的には、周作人がなぜ明末文人の張岱を「都会詩人」と当時においては現代的な言葉を用いて名づけ、評したのか、張岱の小品文集『陶庵夢憶』を中心とした周作人の記述に分析を施した。従来の論考では、周作人と張岱を主とする明末文学との関わりが、彼の文学史観や気質によるものである、としたものばかりであったが、本研究では、次のような結論を得るに至った。それは、一つに、周作人が五四以来の中国の「近代」崇拝に対して疑問を抱いていたから、もう一つには、都市生活を徹底的に楽しみ、また、その風景と人間を描いた明末文人張岱の感性に、自分と重なる点を見出していたから、である。 以上の研究は、当初計画していた本年度の研究目的、研究実施内容に基づいて実施し、得られた成果である。
|
Research Products
(2 results)