2007 Fiscal Year Annual Research Report
精密な相対論的電子状態理論の開発と重原子化合物の磁気物性と励起状態への応用
Project/Area Number |
05J06399
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
谷村 景貴 Tokyo Metropolitan University, 大学院・理学研究科・化学専攻, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 磁気化学 / 多核NMR / 金属酵素 / ^<63>Cu-NMR / 相対論的効果 / 電子相関効果 / 生命科学 |
Research Abstract |
20世紀は「科学の世紀」であったということに異論を挟む者はいないであろう。20世紀前半には量子力学と相対性理論によってそれまでの世界観・物質観が一変した。20世紀前半は「物質科学の時代」であったということができる。一方、20世紀後半にはDNAの二重らせん構造の解明により、生命が物理や化学の言語によって記述しうることが示された。つまり20世紀後半は「生命科学の時代」であったということができる。この「物質科学」から「生命科学」へのシフトは科学全体の大きなうねりであり、私が専門とする量子化学においても生命へのアプローチというのは今後よりいっそう重要なトピックスになるであろう。生命を司る分子は「非常に巨大」で、また「非常に複雑」である。こうした問題に対して様々な方法論が研究されている。例えば、アルゴリズムの改良やコンピュータの高速化・並列化などにより、数万原子からなる分子の計算が実行されている。また対象となる分子をそのまま扱うのではなく、モデル化(単純化)することによって、巨大で複雑な系の機能や物性を再現しようとする試みも行われている。本研究では後者のモデル化による方法論を用いる。 生命への量子化学的アプローチとして、本研究では金属酵素(のモデル分子)を取り上げる。金属酵素の活性中心にある金属イオンや、それに配位する小分子(酸素、一酸化炭素など)の電子状態を、多核種NMRにより観測して、機能との関わりが研究されている。生体内には、たくさんの銅イオンをもつ酵素が存在する。これらは、同じ銅イオンを持ちながら、いろいろな機能を発現する。これらの酵素の機能を制御する機構を解明するために、^<63>Cu-NMRが有用であると考えられる。実験によると^<63>Cu-NMRの化学シフトと銅に配位した一酸化炭素の振動数の間には相関関係が見られた。これは^<63>Cu-NMRスペクトルから配位子場の特徴を知ることができることを示している。本研究では銅を中心に持つ金属酵素のモデル分子における^<63>Cu-NMRの量子化学計算を実行し、実験結果を再現し、そのメカニズムを詳細に解析することを目的としている。また相対論的効果と電子相関効果を考慮した理論を導入して、これらの効果が定性的・定量的にどの程度であるのかを検証したい。現在は種々の^<63>Cu-NMRの計算を完了し、実測と計算値との相関が十分であることを確認し、それらのメカニズムの解析を進めているところである。
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