2006 Fiscal Year Annual Research Report
G(糖)タンパク質細胞質領域を欠損させた狂犬病ウイルスの作出
Project/Area Number |
05J06598
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
山田 健太郎 国立感染症研究所, ウイルス第三部第三室, 特別研究員(PD)
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Keywords | 狂犬病ウイルス / Gタンパク質 / 細胞質領域 / 神経細胞間伝播 / 粒子形成 / 神経病原性 / SSPE |
Research Abstract |
ウイルスの神経細胞間伝播に感染性粒子の形成は必要なのかを明らかにすることが最終的な目標である。 麻疹ウイルスによって引き起こされる亜急性硬化性全脳炎(SSPE)では、分離されるウイルスにMタンパク質や糖タンパク質であるFタンパク質の細胞質領域に変異もしくは欠損が認められ、SSPEウイルスは感染性粒子形成能がほとんどないことが報告されている。今回このSSPEウイルスのSI株を用いて、感染性粒子形成能が欠落したウイルスの神経細胞間伝播を明らかにし、狂犬病ウイルスの場合との類似性と相違性について考察することを目的とした。 SI株はVero/hSLAM細胞において膜融合による合胞体を形成したが、培養上清中には感染性粒子はほとんど認められなかった。SI株感染細胞のウエスタンブロットでは、抗Mタンパク質抗体およびFタンパク質の細胞質領域を認識する抗体ではバンドは検出できなかった。SI株の全塩基配列を決定し、各タンパク質の推定アミノ酸配列を野外株IC-B株と比較したところ、Mタンパク質では高度な変異が認められ(Mタンパク質では85%、他は98%以上の相同性)、Fタンパク質では細胞質領域に19アミノ酸の欠損が認められた。これらの変異が感染性粒子形成能の欠落に影響を与えていると考えられた。 麻疹ウイルスに関しMタンパク質もしくはFタンパク質細胞質領域を欠損させたウイルスは合胞体形成能が上昇するという報告があり、またSSPE患者では髄液中に抗麻疹抗体が存在する。SSPEウイルスに認められた変異は、抗体存在下でのウイルスの神経細胞間伝播において適応的な変異である可能性、つまり抗体存在下では粒子による伝播よりもシナプスでの膜融合によるウイルスゲノムの伝播の方が効率的であると考えられた。 これまでに狂犬病ウイルスでは自然界よりSSPEウイルスのような変異を持つウイルスが分離された報告は無い。SSPEウイルスで認められた変異は、狂犬病ウイルスとは異なり、エンドソーム内ではなく細胞膜上で膜融合を起こす性質を持つためだと考えられた。 一方、ワクシニアウイルスを用いない麻疹ウイルスのcDNAクローンからのウイルス回収法を確立した。このことと併せて、今回の成果は未だ確立されていないSSPEウイルスのリバースジェネティクス系の確立およびその系を用いた解析に向けての足がかりとなると考えられた。
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