2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J06848
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
村井 千寿子 玉川大学, 学術研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 記憶 / 長期視覚的再認 / ニホンザル |
Research Abstract |
本研究では,ニホンザルを対象に,対象の長期視覚的再認についての実験的検討をおこなった.被験体には京都大学霊長類研究所において人工保育で育てられた5歳のニホンザル2頭を用いた.本実験では,実験的に導入した対象ではなく,被験体が生後2年間の日常生活において経験した実物対象(ヒト養育者,一緒に保育されたニホンザル他個体,日常的に訪れていた所内の野外施設)を記憶刺激として利用し,被験体がこれらの対象をおよそ3年の遅延後に再認するかどうかを調べた.実験には視覚的再認課題を用いた.再認テストにおいて,被験体には上述の3種類の既知実物対象の写真刺激(既知刺激)と,同カテゴリからの新奇対象を写した写真刺激(新奇刺激)とを1枚ずつ提示し,刺激提示中の被験体の注視時間を評価した.もし,被験体が刺激対象に対して弁別的な選好注視反応を見せた場合には,被験体が既知対象を再認したものとする.実験の結果,両個体において既知刺激に対する有意な選好がみられた.つまり,被験体が写真刺激を手がかりに,3年前に経験した既知対象を再認することが示唆された.一方,これらの対象について事前の経験をもたない別のニホンザル2個体(玉川大学にて飼育されている成体個体)を対象に同様の実験をおこなった結果,このような弁別的選好はみられなかった.よって,さきの弁別的選好が確かに被験体の記憶に基づくものであり,単なる刺激対象の視覚的顕著さなどによるものではないことが確認された.これらの結果は,ヒト以外の霊長類の長期記憶を改めて確認するものであるとともに,ニホンザルが見た目の変容を伴う動的な対象についても,その情報を長期間保持することを示す.本研究は,ヒト以外の霊長類における長期記憶の新たな証拠を提供する点で,彼らの記憶能力に関するさらなる理解に貢献すると考える.
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