2005 Fiscal Year Annual Research Report
ハンナ・アーレントにおけるthinkingの政治的役割
Project/Area Number |
05J07294
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
平井 毅 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ハンナ・アーレント / 政治思想 / 全体主義 / 思考 / 公的領域 / 理解 / 複数性 |
Research Abstract |
本研究は、ハンナ・アーレントの思考thinking概念を彼女の政治思想との関連から位置づけ、彼女が思考活動に見出した政治的役割を考究した。 1、『精神の生活』を主要テキストとして、アーレントの思考概念の基本的特徴である「退きこもり(withdrawal)」と、彼女が思考活動の理想的なモデルと捉えたソクラテスに関する議論を検証した。アーレントがソクラテスにみていたのは、政治の領域であるポリスの市場と思考の領域とを行き来し、孤独な思考と市民との対話を連接させる試みであった。この検証から、伝統的哲学者の思考様式への批判としてのみならず、政治的行為にのみ重きを置くプラグマティックな思想への批判として、アーレントの思考概念を位置づけることができた。 2、アーレントが思考の意味として位置づけたのは、理解(understanding)である。伝統的哲学のように事物の認識や真理を希求するのではなく、思考はある出来事や事物が人間にとっていかなる意味や本性をもつのかを問いかけ、その意味を獲得して理解する行為とされる。理解は人間が苦痛や悲しみを伴う現実世界と対峙し、それを受け入れる方途であるとアーレントは考えていた。この思考と理解の結びつきへの着目から、現実世界に直接働きかけることによってそれに向き合う政治活動とは対照的な、世界を理解し現実を受け入れることでそれと対峙するものとしての思考活動が、アーレントにとって政治と思考が切り結ぶ接点であったということを確認することができた。 本年度は上記の成果に関して、拙論「ハンナ・アーレント「真理と政治」の分析-事実の真理の諸問題」を雑誌『文化交流研究』において発表し、また文化交流研究会では「ハンナ・アーレント-政治における嘘」という報告を行った。
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Research Products
(1 results)