2006 Fiscal Year Annual Research Report
ハンナ・アーレントにおけるthinkingの政治的役割
Project/Area Number |
05J07294
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
平井 毅 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ハンナ・アーレント / 政治思想 / 思考 / 物語 / 理解 / リアリティ / 「過去と未来の間」 |
Research Abstract |
平成18年度の本研究では、ハンナ・アーレントの思考thinking概念をその政治思想との関連づけ、特にアーレントの物語論との関係から思考の政治的役割について考究した。 1、前年度には、アーレントがソクラテスをモデルとして思考活動を把握し、政治領域であるポリスと思考の領域のあいだを行き来しながら、市民との対話と思考活動を結びつけようとしたソクラテスの試みに関するアーレントの議論を分析した。 2、本年度はソクラテスに関するアーレントの議論を基底におきつつ、主に『過去と未来の間』を参照しながら、思考と政治的経験の記憶および受け継ぎの問題を考究した。アーレントは、第二次大戦後に明らかとなった問題を、政治的な活動や経験の少なさではなく、その政治的経験を事後的に「継承し、問いかけ、思考し、想起する精神」の欠如であると捉えた。『過去と未来の間』という著作自体、アーレントがこの問題意識を自らの実践的思考のなかで解決しようとする試みであった。本研究は、アーレントが実践的思考をいかに遂行し、また実践的思考の内実をどのように提示しているかを分析した。その分析のなかで彼女の物語論に着目し、実践的思考の過程と物語ることとの関係を明らかにした。 3、アーレントの物語論は、上述した思考と政治的経験の分離という状況に対して提起されている。言語化し物語る行為において、政治的経験や出来事のリアリティは思考と切り離されることなく、理解可能な記憶として継承されるとアーレントは捉えている。本研究ではこの物語による思考とリアリティとの和解というテーマを取り上げ、アーレントがこの過程をいかに位置づけているかを考究した。
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