2005 Fiscal Year Annual Research Report
聾学校聴者教師の聴覚障害児観の構造と規定要因に関する量的・質的検討
Project/Area Number |
05J07311
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木村 素子 筑波大学, 大学院・人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 聾学校 / 聴者教師 / 聾者教師 / 聴覚障害児観 / 公立学校 / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
現代の聾学校聴者教師の聴覚障害児観は、個々に独立して存在しているわけではなく、これまでの聾教育の歴史を基盤にして構成されている。20世紀転換期アメリカ合衆国の通学制聾学校は口話法推進を企図して創設されたが、なかには聾者教師によって創設され手話法を採用した学校もあり、聴者教師およびその比較対象としての聾者教師の聴覚障害児観を併せて検討できる数少ない事例の一つである。本年度は、聾者教師が中心となり創設された学校の一つであるシカゴ公立通学制聾学校の教育を分析し、聾者教師の聴覚障害児観について検討した。 シカゴ校では、寄宿制聾学校でも重視されていた英語習得を第一の教育目標とした教育が行われ、同時に教科教育も行われた。これは、公立学校の教育課程に準ずるものであったと同時に、従来からの聴覚障害児の教科教育可能性の認識を踏襲したものでもあった。さらにシカゴ校では聴覚障害児に欠けがちな常識、知識を教えることを目的とした道徳習慣の習得も目指されたが、これはシカゴの半数近くを占めた移民生徒のアメリカ化を目指した公立学校教育課程の「雑学習」に類似した内容でもあった。他方、19世紀末のシカゴ校では口話法は採用されず、対象を限定した発音指導が行われるのみであった。これは生徒の実態が多様であり効率的な教授法である手話法の採用が不可欠であったためである。またシカゴ校教師の大半は伝統的な手話教授法を体得し、生徒が訴えていた発音学習に対する嫌悪感に理解を示せる聾者であったことも指導法採用に影響していたといえる。一方、職業教育については訓練設備が不十分なため、専ら技術・知識習得の土台となる英語習得が重視された。 検討の結果、仮説的ではあるが、シカゴ校教師は、聴覚障害児を、英語を習得し可能な限り教科教育を施すことによって社会へ送り出すことが可能な存在と捉えていたといえる。一方で、他校で強調された口話習得や聴者社会への同化は重要視されなかった。このような差異の要因には,聾当事者としての聾者教師の聴覚障害児観が反映されていたことが示唆される。今後は、聴者が中心となって創設されたミルウォーキー校の検討を行い、聴者教師と聾者教師の聴覚障害児観の相違を明確にしたい。
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Research Products
(2 results)