2006 Fiscal Year Annual Research Report
風景と地図:16世紀ネーデルラントにおける風景表現の展開と同時代の精神世界
Project/Area Number |
05J07376
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
廣川 暁生 お茶の水女子大学, 文教育学部, 特別研究員PD
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Keywords | アントワープ / 都市景観図 / ネーデルラント風景画 |
Research Abstract |
[調査研究の目的]:アントワープの都市表象に焦点をあて、ネーデルラントの風景表現の展開における「地誌的な」風景画の誕生に関し、従来詳らかにされてこなかった諸点を明らかにする。 [調査研究の背景]:近年の研究により、「地誌的な」風景画の成立には16世紀末にアントワープから北部オランダの諸都市へと移住した画家たちの果たした役割が指摘されてきた。一方アントワープに残り制作を続けた画家たちの活動については等閑視されてきた。そこで本調査研究においては16世紀を通じて頻繁に描かれ、独立した主題を形成するようになっていくアントワープの都市像が北部への移住が行われた以降も周地で制作された美術作品に頻繁に登場する点に注目して行った。 [調査研究の内容と成果]:調査研究は先行研究に対する考察、2度にわたるベルギー(ブリュッセル自由大学、王立図書館(地図部門)、アントワープ(プランタンモレトウス美術館、王立美術館)での調査(8月8日-20日(私費)、1月20日-29日(科学研究費))における資料収集の成果をもとに、日本において行った。まずアントワープの都市像の図像的形成過程を明らかにするために、「都市景観図」との関係に注目し、当初非常に断面的な描写であった都市の描写が、「都市景観図」の普及にともない、都市の全体像が舞台の書割のように画面に登場してくることから、両者の密接な関係が推察された。また、都市像の流行は特定の場所を題材にした「地誌的」な風景画に十分なモチーフを提供する地盤を作り出したと考えられ、なかでも16世紀後半から17世紀にかけて数多く描かれた「アントワープのスヘルデ河の冬景色」の主題は、「地誌的な」風景画の最も初期の例のひとつと考えられる点を指摘した。 以上の調査研究において「地誌的な」風景画の誕生にあたり、「地図」と「風景」の具体的な相関関係の一端を明らかにすることができた。また風景表現の展開において従来等閑視されてきた16世紀末のアントワープの画家たちの果たした役割を指摘した。
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