Research Abstract |
海生軟体動物であるカサガイ類は,最も原始的な巻貝類として,近年その系統進化史が注目されている.現生のカサガイ類は,これまでの分類学的研究により,5つの科に分類されているが,これらの科の系統関係は明らかにされていない.また,全世界的なサンプルを網羅した生物地理学的なこれまでに前例がない.そこで本研究では,分子系統学的手法を用い,カサガイ目全体の系統関係を明らかにする事と,海洋生物の生物地理学的発展過程の規範的なシナリオを提示する事を目的とした.本研究では世界各地から入手した5科23属140種を解析の対象とし,mtDNAの12S,16S, COI領域,核DNAの18S,28Sの一部の塩基配列を決定し,分子系統解析を行った. その結果,新たに得られた分子データに基づく系統関係は,これまでの形態学に基づく分類体系の修正をせまる結果となった.Patellidae, Nacellidae, Lepetidaeの単系統性は高い統計的信頼性で支持されたものの,AcmaeidaeとLottiidaeは多系統である事が判明した.AcmaeinaeはLottiidaeに包含される事が判明し,亜科の分類的正統性を失う事となり,Pectinodontinaeは科のグループとして繰り上げる事となった.またLottiidaeに属する、Patelloida profundaグループはカサガイ類の中でもっとも祖先的な種群である事が判明し,形態的にも遺伝的にも他の種群と異なる事から,新科Eoacmeidae新属Eoacmeaを提唱した.さらに推定された分岐年代と古地理,化石記録,現在の分布を総合的に考察されると,カサガイ類の種の多様性や現在の生物地理は,中生代以降の超大陸パンゲアの分裂とそれに伴う新たな海流系の成立と海洋気候の変化に密接に関連している事が判明した.
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