Research Abstract |
マスコミ報道における誤報のように,誤情報は我々の社会生活に大きな影響を及ぼす。誤情報の効果に関する研究からは,誤情報の発生後に訂正してもその影響を完全に排除することが困難であり,特に当該人物に対する感情が訂正後も残存することが示されていた。このことは,誤情報となる可能性のある情報を受け取る段階における,感情の喚起を最小限に抑える必要性を示している。 以上の問題意識を踏まえ,本年度は,事件報道で容疑者の性格や趣味等の特異性を強調することが多いことに注目し,他者との類似性がその人物に対して生じる感情に及ぼす影響について検討した。特に本研究では,共感感情を検討した。これは,既存の研究から,共感感情がネガティブな対人感情を抑えることが明らかにされており,共感感情の増加が,ネガティブ感情を低下させると考えられたためである。 実験で使用した質問紙には,まずある人物に関する態度情報が示され,参加者には自分との類似性を評定させた。その際,進化心理学的考察から,類似性の効果の原因が,類似他者があたかも血縁者のように認識されることにあると仮定し,遺伝率の高い態度情報と低い態度情報を使用した。その後,その人物が経験したネガティブな出来事が示され,共感感情の程度を評定させた。 実験の結果,類似性と感情の問には統計的な関係はなかった。しかし,類似内容を遺伝率の高低で分類すると,女性において遺伝率の高い形質の類似性の増加により共感感情も増加することが明らかになった。 この結果は,自分と類似した人物がネガティブなときに共感感情が増加することを示している。これを事件報道における誤報にあてはめると,容疑者の特異性を強調する報道が類似性の低下を導き,共感感情の低下だけでなくネガティブ感情の増加を招く結果,それが訂正後も残存すると考えられ,本研究の結果はこの報道方法の改善の必要性を示唆していると考えることができる。
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