Research Abstract |
Auslander-Buchweitzの定理で,「Gorenstein環上では全反射加群の圏は反変有限である」というものがある。これは,Gorenstein環上の加群の圏は全反射加群の圏と有限射影次元加群の圏の`貼り合わせ'で構成されている,ということを意味していて,その後の可換代数学に大きな影響を与えた重要な定理である。私は,この定理の逆,つまり全反射加群の圏が反変有限な環はGorensteinであることを,(たとえば)2次元以下の環に対して成り立つことを証明した。そして,2次元以下の非Gorenstein環上には,全反射加群が一つでも存在すれば直既約な全反射加群の同型類が無限個存在する,という系を与えた。これは,全反射加群は基礎環のGorenstein性に関わらず同様のふるまいをするであろう,という大方の予想を覆す結果であり,世界各国の研究者から大きな反響を得た。また,全反射加群によって近似される加群の圏が全反射加群の圏とそれの直交圏によって生成されるthickな圏であることを証明し,全反射加群によって近似される一連の加群を系統的に見出した。さらに,全反射加群の圏が反変有限になるための数々の十分条件を与え,与えられた加群が全反射加群によって近似されるかどうかをTateコホモロジーの消滅によって判定する方法を構築した。このような観点からの考察は過去に例が無く,全反射加群の研究に新たな視点を与えるものである。 一方,私は渡辺敬一氏との共同研究で,任意の種数2以上の滑らかな射影曲線から,2次元のGorensteinでないCohen-Macaulay整閉整域とその上の全反射加群を構成する方法を与えた。非自明な全反射加群をもつ非Gorenstein整閉整域もその上の全反射加群も具体的にたくさん与えることができる我々の方法は,全反射加群の研究に大きな貢献をもたらすものであると言える。また,数年前にHunekeとLeuschkeは,Cohen-Macaulay環の特異軌跡が,有限表現型のときは0次元(すなわち孤立特異点)で,可算表現型のときは1次元以下になることを示した。(後者はSchreyerが1980年代に提示した予想を解決する結果である。)私はまず彼らの第一の結果の証明を分析して,Gorensteinでない環上には巡回全反射加群が一つでも存在すれば直既約な全反射加群の同型類が無限個存在することを証明した。次に彼らの第二の結果を一般化し,多少の条件をみたす素イデアルと全反射加群が存在すれば,直既約な全反射加群の同型類が非可算無限個存在する,という結果を得た。一般に自明でない例の構成すら困難な全反射加群が多くの場合において非可算無限個存在することが判明したということは,大きな進展である。
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