2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J07964
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
宇津野 宏樹 信州大学, 理学部, 特別研究員-DC1
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Keywords | 左右性 / 発生拘束 / 適応進化 / 軟体動物 |
Research Abstract |
動物の内臓は普遍的に左右非対称だが,その左右が反転した種(鏡像種)は一般に例を見ない.突然変異で生じる鏡像体は生態的に異常であるとは考えにくいため,発生拘束が原因としか考えられない.しかし,技術的な問題により,発生拘束仮説を実験的に検証した例はない.本研究では,有肺類の同時雌雄同体と左右極性の遅滞遺伝という特徴を用いて,同一の核遺伝子を共有する右巻と左巻(鏡像体)の作成に成功した.これらの右巻と左巻の比較により,左右逆転した発生が異常かどうか,すなわち発生拘束が存在するかどうかを実験的に検証した.本年度までに以下の三点を明らかにした. 1)鏡像体は安定化淘汰を受けている モノアラガイで,殻を作る遺伝子が同じでも左巻は鏡像対称の殻を作れないことを発見した.これは発生拘束の存在を示唆する.その左巻は孵化までの生存率が低下した.よって,左巻は安定化淘汰され進化できないと考えられる. 2)発生拘束が鏡像体の異常を引き起こす オナジマイマイのラセミ系統は一匹の母親が右巻と左巻を産む特異な変異系統である.その右巻と左巻は,同じ核ゲノムを持ち,同じ母性効果を受けているので,発生の左右極性だけが異なると考えられる.その右巻と左巻を比較した結果,左巻では殻が鏡像対称でなく,孵化率が低下した.これは,左右反転した発生が正常に進まないという発生拘束の存在を証明している. 3)鏡像体の孵化率に相加遺伝分散がある 巻貝では例外的に鏡像種が繰り返し進化した.鏡像体はどうやって発生拘束を乗り越えたのか.オナジマイマイで,親子間の孵化率の比較により,左巻孵化率に相加遺伝分散があることを発見した.また,左巻孵化率と右巻孵化率は遺伝相関しなかった.これらの結果は,自然選択で正常な左巻が進化できることを示唆している. 来年度は,人為淘汰実験により,正常な左巻が進化できるかどうかを確かめる予定である.
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