2006 Fiscal Year Annual Research Report
16世紀のイングランド及びスコットランドにおける歴史の伝達形式を探る
Project/Area Number |
05J08071
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中野 涼子 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | スコットランド / 歴史書 / 翻訳 / ラテン語 / 自国語 / 君主論 |
Research Abstract |
文学作品の成立には、その当時の政治的、社会的背景が密接に関連している。15世紀、16世紀にかけてスコットランドにおいて生み出された作品も、当時の不安定な政局の影響を大きく受けていた。10歳に満たない幼年の王子が王位を継承することが続いたスコットランドでは、若い国王の教育を目的として、‘advice to princes'、‘mirror for kings'などと呼ばれるジャンルの作品が執筆されるようになり、文芸パトロンとしての国王の存在が確立するにつれ、このようなジャンルの作品が国王に献呈されることが多くなった。このような時代の流れの中でヘクター・ボエスが執筆した、最初の本格的なスコットランドの歴史書、Scotorum Historiaも君主論的要素を持っていることで知られているが、これをスコットランド英訳したジョン・ベレンデンによるChronicles of Scotlandにおける君主論的要素に関しては、これまで注目されてこなかった。しかし、このベレンデンの写本とそれを改訂した印刷本をボエスと比較してみた結果、ボエスよりもベレンデンの写本、そして写本よりもさらに印刷本の方が君主論的要素を色濃く反映していることが判明した。 ベレンデンはボエスの作品を翻訳するにあたり、国王に献呈するための写本と、その後広く読まれるであろう印刷本には異なる読者層を想定し、その読者層に合わせて内容を大幅に変更している。そして、ベレンデンが写本から印刷本に大きな変化を加えた部分には、君主論的形式を多用したり、エラスムスの君主論を援用したりするなど、君主論的要素が強調されていることは注目に値する。これは単に当時の文学作品の流行を取り入れたというよりもむしろ、必ずしも国王との関係が良好ではなかった自らの主義・主張を作品にうまく取り入れるための一つの道具として利用したものと考えられるのである。
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Research Products
(1 results)