Research Abstract |
今年度は,前年度後半の研究に引き続き,結び目群の指標多様体の構造研究を行った.この研究の鍵となるのは,指標多様体の断面S_0(K)である.S_0(K)とは,その名の通り,指標多様体をある特殊な超平面で切断したときに得られる切断面であり,指標多様体の部分代数多様体になっている.前年度の研究成果から,断面S_0(K)は,Z係数ホモロジー群abelian knot contact homology HC_*^<ab>(K)の0次部分HC_0^<ab>(K)と同型になることがわかっている. 今年度前半の研究では,断面S_0(K)を用いることで,新たな視点から指標多様体を研究した.S_0(K)は,2重分岐被覆構造を持つことが簡単な考察により確かめられるが,その分岐点になるための必要十分条件が『既約metabelian表現の指標』であることが,東京大学COE研究員の山口祥司氏との共同研究で明らかになった.また,2重分岐被覆S_0(K)の底空間からは,結び目の2重分岐被覆群(=結び目で分岐する3次元球面の2重分岐被覆の基本群)の指標多様体への単射が存在することが同共同研究によってわかった.その系として『HC_0^<ab>(K)と結び目の2重分岐被覆群に対する指標多様体の関係』を示すL.Ng予想の(部分的)証明が得られることは,今年度における最大の研究成果である. 今年度後半は,結び目の連結和に対する断面S_0(K)の構造変化について重点的に研究を行った.その結果,断面S_0(K)は,その0次元既約成分については,連結和について,加法的に構造を保つことがわかった.これは,Xiao-Song Lin氏によって導入された『Casson-Lin不変量』の視点からみると,結び目の符号数(signature)が,S_0(K)の0次元部分構造を捉えていると解釈でき,非常に興味深い結果である.
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