2005 Fiscal Year Annual Research Report
「阿闍世コンプレックス」における阿闍世物語の出典と変遷に関する研究
Project/Area Number |
05J08700
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
森口 眞衣 北海道大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 阿闍世コンプレックス / 王舎城の悲劇 / 仏教説話 |
Research Abstract |
「阿闍世コンプレックス」の阿闍世物語に関する調査として仏教文学会に参加し情報収集を行った。また大谷大学・龍谷大学で仏教・文学関係の必要な基礎資料を複写収集しデータベース作成を既に開始している。阿闍世物語の変遷に関し、今回は明治期以降の文学作品以前の段階で存在した物語の系統を確定するため古代〜中世の日本における説話集を調査し、12世紀〜15世紀の日本に存在した阿闍世王に関する物語について内容を分析した結果、以下の新たな成果が得ちれた。 1.古代〜中世の説話集における阿闍世王の物語は『今昔物語集』を除くと基本的に『観無量寿経』あるいは『涅槃経』梵行品を出典とするか両者を連結させた形式の説話としてのみ存在し、ほぼ仏典の引用に近い形で記述されている。 2.『今昔物語集』の説話には『涅槃経』迦葉菩薩品の影響が想定でき、引用中心の構成ではなく説話前半の具体性を高め後半を簡略化するという脚色的な記述が認められる完成度の高いエピソード展開である。明治以降の文学作品等で「王舎城の悲劇」として日本国内で広まった「父子悲劇」としての阿闍世王の物語に最も類似するが、『今昔物語集』は一般に流布した可能性が低いと考えられているため両者の関係を明らかにするには更に調査が必要と考えている。 3.中世までの日本で知られていた阿闍世王に関する説話に「阿闍世コンプレックス」における阿闍世物語の基本である「阿闍世と韋提希の母子悲劇性」は認められない。日本の古典文学に見られる阿闍世王の物語は「阿闍世コンプレックス」の阿闍世物語に顕著な「韋提希の悲劇化」現象との関係が薄いと考えられる。 以上を平成17年9月10日に開かれた北海道印度哲学仏教学会第21回学術大会で発表し、平成18年中に出版される学会誌掲載に向け論文執筆中である。また精神医学と関連する他の問題への調査準備として図書購入とデータベース作成を開始した。
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