2007 Fiscal Year Annual Research Report
「阿闍世コンプレックス」における阿闍世物語の出典と変遷に関する研究
Project/Area Number |
05J08700
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
森口 眞衣 Hokkaido University, 医学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 阿闍世コンプレックス / 王舎城の悲劇 / 仏教説話 / インド医学 / スシュルタサンヒター / 精神医学 |
Research Abstract |
昨年度の分析で阿闍世物語成立は仏教経典でなく受容の文化的背景に基づくという仮説を得た。本年度は異同の中心「母親像」変遷の解明を目的とし、以下の新たな成果を得た。 1.仏教経典の(1)「強い王妃」(2)「嘆きの母」に対し「阿闍世コンプレックス」では(3)「哀れな妻であり愚かな母」となる。古典文学作品はほぼ(2)に一貫し、江戸時代以降の戯曲作品や昭和以降の著作物に当時の日本女性の煩悶を(3)で表現する傾向が判明した。従って経典を直接の出典としない作品群で行われた自由な脚角から(3)の人物像が成立した可能性があり、「阿闍世コンプレックス」成立に関する仮説の傍証とした。 また宗教と医療を連結する境界領域開拓に向けインド医学と現代精神医学を架橋する問題のうち、昨年度の分析で古代インド医学文献『スシュルタサンヒター』の精神病関連記事とされる部門に現代精神医学における特定状態像との一致を認めるのは困難という仮説を得た。全体にわたる精神病理学的な症状記述を検証したところ、以下の新たな成果を得た。 2.食の不調や不眠に併発し健康人の単なる落ち込みとは区別した形で点在する「抑うつ」の記述から、現代の疾病分類と異なるインド古典医学体系で「うつ病」は独立した疾病としてではなく症状の形態で把握されていた可能性がある。 3.後代の付加とされる最終部分に部位・症状に着目して病理・治療を分類、疾病を体系化する姿勢が看取できるため、症状レベルでの疾患把握を検証し伝統的分類に基づいた本書の構成を再検討する必要がある。 以上の成果のうち1について北海道印度哲学仏教学会の学会誌に論文を掲載し、また精神神経学雑誌へも受け入れ研究者との共著論文を投稿中である。また2〜3については2007年7月28日開催の北海道印度哲学仏教学会、10月4日開催の日本精神病理・精神療法学会で発表し、それぞれ学会誌掲載に向け論文を投稿中である。
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Research Products
(3 results)