2006 Fiscal Year Annual Research Report
「阿闍世コンプレックス」における阿闍世物語の出典と変遷に関する研究
Project/Area Number |
05J08700
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
森口 眞衣 北海道大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 阿闍世コンプレックス / 王舎城の悲劇 / 仏教説話 / 『スシュルタサンヒター』 / 精神医学 / インド |
Research Abstract |
昨年度の分析で「阿闍世コンプレックス」の阿闍世物語に顕著な特徴は近世以降に生じたという仮説を得た。本年度はその契機解明のため仏教説話〜戯曲作品まで範囲を拡大して調査し、以下の新たな成果が得られた。 1.江戸時代に阿闍世王をモチーフとした狂言が成立し独創的な脚色が部分的に見られたが、エピソード展開自体は基本的に仏典からの取材に基づいており逸脱は認められなかった。 2.江戸末期に近松門左衛門の浄瑠璃など「悪行の息子を持つ愚かな母・妻」像を韋提希の比喩で描写するものも現れ、明治〜大正期には仏典の阿闍世王説話からエピソードを集成した戯曲作品が好評を得ていた。戯曲文学での展開により物語の悲劇化と登場人物の脚色が急速に進み、「阿闍世コンプレックス」提唱期に仏典講話関係書籍で紹介された韋提希像へも悲劇性を与えた可能性がある。従って日本では仏典の記述から離れた「王舎城の悲劇」という自由に展開した形態が物語として受容され「阿闍世コンプレックス」の「阿闍世物語」成立の背景となり、コンプレックスの成立後に改めて説話の源泉である仏教経典が「出典」として結び付けられたことが判明した。 またインド医学と現代精神医学の関連についての調査として昨年度より古代インド医学文献のひとつ『スシュルタサンヒター』の検討を開始しており、現段階で以下の新たな成果が得られた。 3.先行研究では精神病関連記事と指摘されていた古代インドの重要な医学文献『スシュルタサンヒター』の一部門に現代精神医学における特定の状態像との一致を認めるのは困難であり、精神病理学的記述が存在するのは別の箇所である可能性が判明した。 以上の成果のうち1〜2は2006年8月26日に開かれた北海道印度哲学仏教学会で発表し、学会誌掲載に向け論文化中である。また3については2006年10月6日に開催された日本精神病理・精神療法学会で発表した。
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Research Products
(1 results)