2006 Fiscal Year Annual Research Report
民事責任の陥穽と現代における「新しいリスク」への対応
Project/Area Number |
05J08856
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
今野 正規 北海道大学, 大学院法学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 民事責任 / 不法行為 / リスク社会 / 不確実性 / 予防原則 |
Research Abstract |
今年度は、従来型の枠組みでは捉えることができない新しいリスクや不確実性を念頭に、それらが民事責任に及ぼす影響--とくに理論的変容--について、社会理論や比較法の動向に配慮しつつ、多角的な観点から検討を行った。本年度の研究成果は、次のとおりである。 1.まず、従来型の民事責任の枠組みを明確なものとするために、「過失責任から無過失責任へ」という法現象を、19世紀フランスの議論に仮託するかたちで、各時代の社会秩序観の変遷として検討した。これは、前年度の研究で扱った課題を深化させたものであり、できるだけ早く公表することにしたい。 2.次に、フランスHLV感染事件及びそれを契機とした民事責任論の分析を通じて、新しいリスク・不確実性に対する民事責任論の展開を検討した。その結果、近時のフランスでは、新しいリスクや不確実性について、伝統的な損害の金銭的填補ばかりではなく、加害者の制裁や事件の真相究明、さらには損害の予防(警戒)といった社会的意味での被害者救済の必要性が意識されるようになっていること、及び予防(警戒)原則を鍵慨念として、これらの要請を民事責任に取り込む積極的な動きがみられることを明らかにした。 3.なお、民事責任におけるリスク・コミュニケーションの役割についての議論状況を把握するために、本年度は幅広く資料収集・情報収集を行った。その結果、多くの先進国で同様の問題意識に基づく研究が、ここ数年、相次いで著わされていることを知った。とりわけアメリカでは、Cass Sunsteinらにより、認知心理学や行動科学の知見を民事責任の判断へ反映させようとする試みが盛んであり、新しいリスクや不確実性への法的対応を検討するうえで、今後の検討課題としたい。
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