2006 Fiscal Year Annual Research Report
環境変動に対する生物の短期的な進化-栄養段階の変化に伴う採餌器官への影響
Project/Area Number |
05J09003
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 春毅 北海道大学, 大学院農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 移入種 / 安定同位体 / 栄養段階変化 / 環境変動 / 食性 / ミヤベイワナ |
Research Abstract |
北海道中部に位置する然別湖に生息するミヤベイワナ(Salvelinus malma miyabei)は、かつて湖に単独で生息していた。その単独生息時には、主な餌資源はプランクトンであった。しかし、然別湖には1950年代に小型プランクトン食魚類であるワカサギが移植されたことに始まり、1960年代に魚食性の強いニジマスが、1980年代には魚食性の強いサクラマスが人為的に放流され定着した。1魚種によって成立していた単純な生態系が、競争種を含んだより複雑な食物網に変化した。つまり、侵入魚種は餌資源として、また、競争種としてミヤベイワナの従来の栄養段階を変え、その栄養段階に新たな変化をもたらした可能性がある。これらの様々な魚種の移入が与える在来種への影響について、安定同位体を指標とした栄養段階の変化を示すことによって明らかにした。 まず、現在の食物網を明らかにすることから、ミヤベイワナは主にプランクトン(70%)を餌資源として利用し、ワカサギも利用していることが明らかになった。また、ワカサギは沖帯由来のプランクトンを捕食、ニジマスは陸由来の生物を補食し、サクラマスは沖帯・陸由来の生物を両者補食していることが明らかになった。この結果は、ミヤベイワナの栄養段階にニジマスの侵入は影響を与えず、サクラマスの侵入は影響をもたらしたことを示唆する。 また、過去70年間のミヤベイワナの栄養段階変化からは、1950年代のワカサギの移入以降、ミヤベイワナの栄養段階は上昇し、1980年代のサクラマスの移入後下降することが示された。この結果は、上記の移入種とミヤベイワナとの食物網における関係と一致する。つまり、ワカサギはミヤベイワナの栄養段階を上昇させ、ニジマスは影響を与えず、サクラマスとのワカサギを巡る競争が再び、ミヤベイワナをプランクトン食の割合を増加させたことが明らかとなった。
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