2006 Fiscal Year Annual Research Report
フレデリック・ダグラスの政治的言説-「マスキュリニティ」の戦略的利用をめぐって
Project/Area Number |
05J09230
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
朴 す英 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | フレデリック・ダグラス / 黒人文学 / 黒人史 / アメリカ / マスキュリニティ / 奴隷体験記 / 南北戦争 |
Research Abstract |
今年度は1850年代のアンテベラム期から南北戦争期を中心にフレデリック・ダグラスのマスキュリニティ言説に焦点を当て、それが状況に応じて巧みに取捨選択、あるいは構築されていく過程を検証した。それにより以下のことが明らかになった。 1.ダグラスは英語のmanあるいはmanhoodという語のもつ、文脈に応じて「男性/人間」、「男性性/人間性」と意味が変わる曖昧さを巧みに利用し、黒人の人間性があらかじめ否定されていた社会において「存在しないはず」の黒人のマスキュリニティを主張した。 2.1850年代における黒人による武力解放を主軸としたmanhoodの提唱は、ダグラスが目的とした黒人の人間性の回復というよりむしろ、男らしさの証明として男性性が内包する暴力の危険性が浮き立つ結果として現われた。このことはダグラスの演説や論説、また彼の唯一の中編小説である"The Heroic Slave"の分析から明らかになった。 3.南北戦争を機に、黒人の北軍参加を推進したダグラスは白人の反発を巧みにかわし、黒人のマスキュリニティ言説における武力行使を政治的に安全性が確認されたかたちへとつなげた。すなわち、連邦の維持という大義のもと黒人が連合軍の軍服をまとい白人とともにアメリカ人として反逆者である南部連合から祖国を守るというイデオロギーを生み出し、その実現によりどのような概念的罠にも回収されない黒人のマスキュリニティの構築を可能にした。
|
Research Products
(1 results)