2007 Fiscal Year Annual Research Report
フレデリック・ダグラスの政治的言説-「マスキュリニティの戦略的利用をめぐって」
Project/Area Number |
05J09230
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
朴 す英 Osaka University, 大学院・言語文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | フレデリック・ダグラス / 黒人文学 / 黒人史 / アメリカ / マスキュリニティ / 奴隷体験記 |
Research Abstract |
今年度は既往の研究では南北戦争後は失われたと考えられてきたフレデリック・ダグラスのマスキュリニティ言説が、実は彼の晩年まで一貫して存在していたことに焦点を当て、それが南北戦争期とは異なるかたちで構築されていく過程を検証した。それにより以下のことが明らかになった。 1.南北戦争後、再建期を経て南北の和解が成り、南北戦争の大義は次第に失われ、その記憶をめぐる議論から黒人は除外されていった。そういった状況の中で、ダグラスが著したハイチ独立の指導者であるトゥサン・ルヴェルチュールに関する未発表の原稿と、黒人雑誌に掲載されたルヴェルチュールに関する記事をもとに、ダグラスのマスキュリニティ言説の変容をたどった。すなわちダグラスはルヴェルチュールに代表される理想的黒人のヒロイズムを18世紀サント・ドミンゴ(現ハイチ)に限定されたものから、100年後の世紀転換期のアメリカに敷術させたのである。 2.黒人女性の問題と関連させダグラスのアイダ・B・ウェルズとの関わりを通して、彼の最晩年のマスキュリニティ言説を明らかにした。特に、黒人男性のリンチにおけるジェンダーやセクシュアリティの観点から分析した。また、1893年のシカゴ万博においてアメリカの黒人が排除された事実に対しダグラスが著した文書をもとに、ダグラス最晩年のマスキュリニティ言説を探った。そしてダグラスのマスキュリニティ言説とは文化的に規定される「男らしさ」の規範を超え、「人間性」にまで広がりを持つものであると、結論付けた。それは「人種」によってジェンダー化された視点を通し、また時に生物学的性差やセクシュアリティまでも戦略として用いることで、19世紀のアメリカ黒人全体を解放しようとする試みであった。
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Research Products
(2 results)