Research Abstract |
近年の材料の微細化にともなって,微細材料や薄膜に対する有効な強度評価法として,ナノインデンテーションが広く用いられるようになってきた.とりわけ,金属材料に対する押込み試験は最も広く行われており,荷重-変位関係における不安定現象として,弾性変形から押込み荷重一定のまま押込み変位が急激に増大する"変位バースト"が報告されている.しかしながら,変位バーストについて多くの議論がなされる一方で,その詳細なメカニズムはいまだ明らかになっていない. 本研究では,まず原子論的手法を用いた解析によって,転位が材料内部の領域で射出されることを明らかにし,さらに押込みによって生成される圧縮応力場によって,そのときの臨界せん断応力が大きく上昇することを示した.また,三次元離散転位動力学法と境界要素法との連結によるマルチスケールモデルを構築し,押込みシミュレーションを行った.その結果,内部に生成された転位綱が押込み荷重に与える影響は小さく,むしろ転位の射出の瞬間に押込み面側に運動する転位双極子による表面ステップがマクロな荷重-変位関係に大きく影響することを示した.そして,エネルギーの釣り合いに基づく数理モデルから,数百もの非常に多数の転位が同時に生成されることによって,変位バーストが引き起こされることを明らかにした. また,近年注目されているナノ多結晶と転位の相互作用に関して,Nudged Elastic Band法を用いて反応の活性化エネルギーを評価した.そして,Σ3対応粒界と刃状転位の相互作用では,転位の単位長さ当たり0.0074[eV/Å]のエネルギーを要することを得るとともに,完全結晶中を運動する転位の抵抗(パイエルスポテンシャル)の約380倍の大きさになることを示した.また,粒界面でDSL転位とステップ転位の分解を観察し,多数の転位の反応によって数十nm程度の粒界移動を引き起こすことを示唆した.
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