2007 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス帝国における世界大戦の記憶とナショナリズムの比較研究
Project/Area Number |
05J09828
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
津田 博司 Osaka University, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DCI)
|
Keywords | イギリス帝国史 / 世界大戦 / 植民地ナショナリズム / 戦没者追悼 / イギリス:カナダ:オーストラリア |
Research Abstract |
本年度は、これまでの研究の体系化に取り組み、オーストラリアおよびカナダにおける脱植民地化と戦争の記憶の変容についての分析を行った。 オーストラリアでは、ヴェトナム戦争期のアンザック・デイを主な研究対象として、前年度に引き続いてオーストラリア国立大学にて在外研究を行った。この調査では、白豪主義やイギリス帝国主義といった既存のイデオロギーへの批判やそれに伴う社会変動に着目しながら、アンザック・デイの担い手である退役軍人会(RSL)や反戦運動団体が、アンザックの記憶に見出した意味について検証した。そこでは、従来イギリス帝国の連帯意識に根ざす帝国的アイデンティティの象徴であったアンザックの伝統が、脱植民地化によってその拠り所を失うと同時に、ヴェトナム戦争をめぐる社会不安のなかでその歴史的文脈を読み替えられ、オーストラリアというポストコロニアルな国民国家の統合の神話として再生したことが明らかとなった。 同様の事象は、カナダ国立公文書館での史料調査においても確認できた。第2次世界大戦直後のカナダにおいては、同時期のオーストラリアと同じく、戦争の記憶を媒介とするイギリス帝国の一員としての意識が支配的であった。しかし、心理的な側面での脱植民地化が進むにつれて、戦没者追悼記念日の機能は、帝国の存在を前提としない、自立的なナショナル・アイデンティティの顕彰へ変わることになる。この変化は、1945・46年および1964年にかけて行われた、カナダ国旗の制定をめぐる論争に示されている。 本研究課題は、両世界大戦後のイギリス帝国における戦争の記憶が、各植民地を横断する帝国的アイデンティティの維持に果たした役割を実証した。さらに、イギリス帝国の衰退以降もなお、それらの戦争の記憶が旧帝国の各国民国家の統合のシンボルとして存続しているという、歴史学的に重要な知見を得ることができた。
|
Research Products
(1 results)