2005 Fiscal Year Annual Research Report
宮内庁書陵部蔵御所本を主対象とした近世禁裏仙洞における歌書の書写史・蔵書史の研究
Project/Area Number |
05J10046
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
酒井 茂幸 国立歴史民俗博物館, 研究部, 特別研究員
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Keywords | 日本文学 / 和歌文学 / 書誌学 / 広幡集 / 御所本 / 禁裏本 / 猪苗代家 / 霊元院 |
Research Abstract |
本研究課題の特色の一つは、宮内庁書陵部蔵御所本(以下「御所本」と略称)、及び国立歴史民俗博物館蔵高松宮家伝来禁裏本などにより構成される禁裏本歌書の収蔵の歴史を、原本の書誌的事項の共通性に着目、個別の和歌資料の書写段階の小グループを把握する作業を通じて、近世公家社会の文化活動として叙述するところにある。 研究代表者は、前年度、室町中期の連歌師の広幢の家集で、天下の孤本である、国立歴史民俗博物館蔵田中穣氏旧蔵本(以下「田中本」と略称)『広幢集』を発見し、全文翻刻も公表していた。ところが、本年度、禁裏本研究の観点から、田中本『広幢集』を改めて精読し広幢の子、顕天の『源氏物語』の享受・研究に関係する資料を調査したところ、次の3点が明らかになった。 1、広幢・顕天の時代の猪苗代家初期の多様な資料の室町末期の転写本が、京都大学付属図書館谷村文庫(以下「谷村文庫」と略称)にまとまって所蔵されていること。 2、谷村文庫本『源語秘訣』『千鳥』などの転写本が御所本の中に伝存していること。 3、2に掲げた現存の御所本は、元禄末年頃の成立とされる東山御文庫本『歌書目録』(勅封102-3-38)に見出され、同定可能であり、元禄期に霊元院の仙洞において書写された可能性が高いこと。 猪苗代家は、江戸時代に近衛家に仕えた家司であり、歴代嫡子の文学事蹟については先行研究もある。しかしながら、霊元院の退位後の収書の範囲が猪苗代家にまで広がっていたことは新知見であり、霊元院の歌書の書写活動の規模の大きさを示唆する。前掲の1・2については、拙稿「『広幢集』-猪苗代家の源流を求めて-」で紙幅を割き明記した。副題に「猪苗代家の源流を求めて」としたとおり、江戸時代の猪苗代家と近衛家・霊元院仙洞との関係を基点にし、時代を遡源する方向で議論を展開したため、『広幢集』論としても独創性の高い一本となった。なお、前掲の3を実証するとともに、近衛家から献上・貸借され、書写された現存の禁裏本を特定するため、近衛基熙の『基熙公記』の解読と書写事蹟の抽出も進めている。
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Research Products
(3 results)