2007 Fiscal Year Annual Research Report
宮内庁書陵部蔵御所本を主対象とした近世禁裏仙洞の書写史・蔵書史の研究
Project/Area Number |
05J10046
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
酒井 茂幸 National Museum of Japanese History, 研究部, 特別研究員PD
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Keywords | 後陽成天皇 / 後水尾天皇 / 禁裏本 / 禁裏文庫 |
Research Abstract |
宮内庁書陵部蔵御所本(以下「御所本」と略称)には、後陽成天皇の著作や収集書籍が少なからず含まれる。多く後西天皇の「明暦」印が捺され、後西天皇に伝来したことが知られる。その中で注意されるのは、『源氏物語』『伊勢物語』『詠歌大概』『未来記雨中吟』などの注釈であり、これらは天皇の講釈の講義ノートである。いずれも、後代「後陽成院御抄」といった題名が付加され、以後の天皇家における歌学・古典学の基盤となった。後陽成天皇が注釈書の作成に当たり引用・参照した室町期の注釈書も御所本に含まれる。これらにも「明暦」印が捺され、後西天皇の禁裏で転写されたものと思われる。また、『(西洞院)時慶〓記』や『(山科)時緒〓記』などの記録に見える後陽成天皇期の書写事蹟を、『古官庫歌書目録』等の古目録類や現存する諸本の本奥書を照合するとかなり一致し、禁裏本の収書と集積の様相が見て取れる。つまり、近世の禁裏本の書写の歴史が、従来指摘されてきた後水尾天皇から、後陽成天皇に遡ることが判明したのである。 では、後水尾天皇の書写活動の実相はいかなるものであったのだろうか。後水尾天皇も『伊勢物語』以下の講釈を行なったが、後陽成天皇同様に室町期の古注釈を書写し、禁裏文庫に収めた。一方、後水尾天皇は退位後に禁裏本の多くを仙洞御所に保有し続け、古典研究や講釈に使用した。『隔〓記』や『(高辻)豊長〓記』に拠ると、古写本や古典籍は、後水尾院の仙洞の書院や茶屋に飾られることがあった。後水尾院が仙洞に所持していた書籍類は、寛文年間(1661〜1673)に霊元天皇の禁裏にもたらされ、禁裏文庫の拡充に大きな役割を果たした。後水尾天皇の書写活動と古典学は、後陽成天皇のそれらを継承し、後西・霊元天皇に受け継いだ意義が存するのである。
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Research Products
(2 results)