2006 Fiscal Year Annual Research Report
研究開発における企業の境界-知的財産権と契約形態の実証分析
Project/Area Number |
05J10099
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
中村 健太 一橋大学, 大学院商学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 産学連携 / 研究契約 / ライセンス契約 / バイオテクノロジー |
Research Abstract |
18年度は主に、米国のバイオ企業と大学との産学研究提携を対象として、契約の特徴を考察した。主要な結論は以下の通りである。第一に、研究契約締結時に、研究成果に関するライセンス条件が決定されることが確認された。具体的には、大学から企業への排他的ライセンスが与えられる(或いは、排他的ライセンスを前提としたオプション)。排他的ライセンスが選択されることに関するバイオ企業側の要因としては、限られた補完的資産しか持たないがゆえに、競争上の優位性を確保するためにも、研究成果を独占的に実施することへの誘因が強いことが挙げられる。また、資金制約や交渉力の欠如といった制約が大学側に存在する場合、それらの大学では研究提携企業への排他的ライセンスによって短期的な収入を最大化する誘因を持つとも考えられる。 第二に、排他的ライセンスを前提とすることで、大学及び企業の機会主義的行動を抑制しつつ、研究開発契約を設計できると考えられる。研究契約には、権利の帰属や特許化の決定主体、公表の制限など様々な項目が存在する。排他的契約を前提としなければ、企業・大学共に個々事項について、最大限の権利獲得を目指すため、両者の利害は一致せず、結果的に成果を秘匿する等の機会主義的行動も起こりかねない。勿論、研究開発契約の場合、契約時点では成果に不確実性が存在するため、ライセンス契約を作成することの取引費用も無視できないが、成果の独占実施契約を所与とすることで、両者は利害の一致を見るため、個別契約事項に関する交渉は容易であり、全体として取引費用の節約に繋がる可能性がある。つまり、研究契約とライセンス契約を並行させることで、交渉の迅速化という意味で機動性の高い産学連携が可能になると考えられる。ただし、リサーチ・ツール問題に象徴されるように、こうした契約による技術移転が常に社会的に望ましい効果を持つとは限らない点は留意する必要がある。
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