2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J10216
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河本 和子 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 近現代政治史 / ロシア:ソ連 / 政治体制論 |
Research Abstract |
研究の初年度として、今年度は資料を集め、読むことに多くの時間を費やした。 資料の中で特に注目に値するのは、1960年代初頭に『哲学の諸問題』誌上で行われた、分業に関する論争である。分業は特権の温床となり、単一であるべき人民の利益とは異なる利益を基礎付けかねないものとして、理論的には忌避されるものであった。しかし、1960年代初頭には現実に存在する分業を理論的に取り込んで、社会主義における分業の位置づけを明らかにする試みが行われるようになった。こうした研究者らによる議論によって、利益の一体性というソ連の政治体制の根幹にかかわる問題に、より複雑な様相が与えられていったといえる。 日本国内にはない資料を求めて、8月11日から9月12日にかけて、モスクワにて資料収集を行った。調査を行ったのは、ロシア国立図書館とロシア国立現代史公文書館である。前者においては、学位論文等を閲覧した。後者においては、党のイデオロギー・学術担当部局と社会科学系の研究所とのやりとりに関する文書を閲覧した。多くの文書は、研究者の海外出張と海外の研究者の招聘に必要な手続き上のものであったが(これを党の意思決定にかからしめていること自体は重要)、中には、党官僚による研究者批判もある。例えば、法学者が抽象的な問題を扱ってばかりで、更なる国家建設について具体的な提案をしておらず、全人民国家論を含む党綱領の要請に応じていないというものを挙げることができる。こうした文書の存在は、党の担当者が研究者による議論に注意を払い、それを「役に立つ」方向へ誘導することを意図していた可能性を示唆する。 さらに、政治体制の理論的変化と対比すべき社会の側の変化を測定するひとつの試みとして、11月18日に、日本国際政治学会研究大会の「テロ後の世界とジェンダー」部会において、「ジェンダーと政治秩序-ソ連からロシアへ-」と題する報告を行った。
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