2006 Fiscal Year Annual Research Report
ジャック・デリダの「テレコミュニケーション倫理」の構築:討議民主主義論の新地平
Project/Area Number |
05J10249
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮崎 裕助 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | コミュニケーション / デリダ / 判断力 / 政治的判断力 / ハーバーマス / アーレント / カント / 『判断力批判』 |
Research Abstract |
本研究の第二年度である18年度の研究実績は、概ね二つの側面に要約することができる。 1.テレテクノロジーにおけるテレコミュニケーションの研究 「テレコミュニケーション」は、デリダ独自の言語哲学概念である。ハーバーマスらの討議倫理学者が主張するように、民主主義における決定=政治的判断が、論議的コミュニケーションを介したコンセンサスの形成に依存すべきだとすれば、テレコミュニケーションの概念は、民主主義に何をもたらすのだろうか。またこの概念が、テレコミュニケーションの技術(出版、電話、テレビ、インターネット等)を再考させるとすれば、現代のテレテクノロジーの拡大は、民主主義にいかなる影響を及ぼすのか。こうした問題は前年度からの継続課題として発展させられることで、政治的判断力の研究として、新たな視座へと接合された。 2.政治的判断力の研究 「政治的判断力」は、アーレントがカントの『判断力批判』の読解から取り出してきた概念である。そこに含まれていたのは、判断を介して感性的なものにおける経験の統合を通じて間主観的な共通基盤--いわば日常のコミュニケーション実践が根ざす生活世界--を取り戻そうというヴィジョンであり、アーレントはこれを、他者の現前において他者との合意を予期することで「美」が現れてくるような公共圏として構想していた。これは、一ポリスでの民主主義的コンセンサスに必要な共通感覚によって形成された討議空間である。しかしながら、デリダが開いていたのは、そのようなポリス的共同体の閉域を超えて、いかにして他者とコミュニケーションが可能になるのか、ということにほかならない。本研究は、判断力による政治的な決定のプロセスを再考するのに、カントの「崇高」概念、およびデリダの「友愛」概念を手がかりとして共同体主義的な情動のコミュニケーションを超える可能性を開いていることを指し示すことができた。
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Research Products
(4 results)