2006 Fiscal Year Annual Research Report
十七世紀イングランドの国家と社会-権力・秩序・共同体
Project/Area Number |
05J10263
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 はる美 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | イギリス史 / 近世史 / 大陪審 / 治安判事 / 法廷 |
Research Abstract |
本年度は17世紀ヨークシャ州ノースライディングの四季法廷大陪審員を主な研究対象とし、彼らの法廷における位置づけを上官である治安判事との関係に着目して検討した。また年度前半を中心に、イギリス・ケンブリッジ大学ウルフソン・コレッジを拠点に、英国内各地の文書館、図書館にて関連史料の調査をすすめた。 その成果の一部は、ロンドン大学歴史学研究所にて開催された第5回日英歴史家会議Junior Sessionにおいて発表された。同口頭報告の改定原稿は、会議終了後に刊行された会議録に所収である(Harumi GOTO-KUDO, 'Charges to the Grand Jury in Seventeenth-Century England', in D.Bates and K.Kondo (eds), Migration and Identity in British History : Proceedings of the Fifth Anglo-Japanese Conference of Historians (Tokyo, 2006), pp.32-41)。 同報告の題材である「大陪審への説示」とは、地方法廷開廷時に大陪審に向けて行われた治安判事・巡回判事による演説である。ここではノースライディング治安判事ハットンが1631年と1661年に四季法廷において行った説示の手稿史料を中心にすえ、その地域性や特殊性を他地域の事例と比較しつつ検討した。ハットンの説示は、一方で大陪審の重要性を、他方で治安判事の監督下での正しい職務遂行を説くことを主題としていた。ここには、社会の成員の有機的連鎖によって成り立つ統治システムへの信頼と、そこに組みこまれるべき大陪審層への期待と懐疑という、治安判事の両義的な意識が表れている。同時に、地方法廷における説示は、統治の末端をになう地域住民に法や統治のあるべき姿を説くことをつうじて、その統治のレトリックに彼らを包摂し、国制に参加する機会を与える一種の教育的機能をもった。この点で、説示という行為が、近世国家の形成を支えた政治プロセスの歯車のひとつであったことが確認された。
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Research Products
(1 results)