2005 Fiscal Year Annual Research Report
十七世紀イングランドの国家と社会-権力・秩序・共同体
Project/Area Number |
05J10263
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 はる美 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | イギリス / 近世史 / 大陪審 / 治安判事 / ヨークシャ / 法廷 |
Research Abstract |
本研究は、17世紀イングランドの国家と地域社会を、住民の統治への参与に着目して考察し、その具体相をあきらかにするものである。本年度は17世紀ヨークシャの四季法廷大陪審員の法廷活動を主要な対象に研究をすすめた。 まず、5月にはすでに研究蓄積のあった大陪審の選任パターンを題材に、英国ケンブリッジ大学歴史学部近世イギリス史セミナーにて報告を行った(2005年5月11日、論題「ヨークシャ州ノースライディングの大陪審c.1605年-c.1705年」)。活発な質疑があり、今後の方向性を探るうえできわめて有益な機会となった。 さらに年度後半からは、ケンブリッジ大学ウルフソン・コレッジを拠点に在外研究を行い、イギリス国立文書館、北ヨークシャ州立文書館、ケンブリッジ大学図書館、ノーサラトン市立図書館ほかにて資料調査を行った。ヨークシャの大陪審員に関連する様々な教区文書や荘園・私家文書、星室法廷史料の収集がその主要な成果である。これらは大陪審員の法廷内外での活動の実態をあきらかにする貴重な手がかりとなる。 このうち、本年度はとくに星室法廷史料の分析にとりくんだ。この史料は、17世紀初頭に星室法廷で争われた、イーストライディングの治安判事間の訴訟に関するものである。訴訟の争点は、カトリック非国教徒の一斉訴追をめぐって紛糾した四季法廷における、議事進行の妨害行為にあった。治安判事たちの一連の答弁は、大陪審の法廷活動を知るうえで有益な情報を与えてくれる。とりわけ、彼らが大陪審による訴状審査や告発に圧力をかける一方で、大陪審へのあからさまな干渉は不当と認識していたことが確認された。この事例は、大陪審の独立性の問題や、治安判事との関係の複雑さを浮きぼりすると同時に、地域住民から選任され誓約のもとで公正な審査を行う大陪審という大陪審制のあるべき姿が、統治システムにおいてもつ重要性を示唆している。
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