2007 Fiscal Year Annual Research Report
世代間倫理の実践的理論構築:近代社会における未来記述の意味論的解明
Project/Area Number |
05J10309
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 和弘 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 環境倫理 / 規範理論 / 世代間倫理 / 環境問題 / 社会理論 / 社会学 |
Research Abstract |
本年度は関東社会学会第55回天会において、「自然の内在的価値をめぐる議論の構図」という題で報告を行った。 この報告は、環境倫理学において自然保護の最終根拠のひとつとして議論されている自然の内在的価値について、その議論の構図を分析したものである。アメリカを中心とする環境倫理学は、人間中心主義と非人間中心主義という二項対立をめぐって展開してきた。自然それ自体の価値としての内在的価値を論理整合的に説明することは、非人間中心主義のひとつの戦略ポイントとなっている。 内在的価値をめぐる議論は、ホームズ・ロルストンIII世を中心とする客観主義的な価値論と、ベアード・キャリコットを中心とする主観主義的な価値論の2つに大別される。客観主義的な価値論は、有機体には自身を維持するために必要なものを判別する価値論的な機能が備わっており、それによって内発的に世界を切り開いていく自己維持システムであることに注目する。他方、主観主義的な価値論は、価値は人間が対象に指向的に付与するものであり、そうした価値は対象それ自体のための価値でありうるという形で、物理的な世界に直接価値を置かずに内在的価値を説明する。 しかし、客観主義的な価値論も主観主義的な価値論も、内在的価値の根拠は最終的には自然科学的に与えられており、価値という社会科学的な用語を用いる理由は別のところにあると考えられる。主観主義的な価値論は人為の結果として自然が破壊されたことに注目しており、すでに介入してしまったことが自然界への倫理的な介入の根拠となっている。他方、客観主義的な価値論はその見かけとは異なり、人間を頂点としたピラミッド状の分布として価値が分布するとされ、価値ある人間を自然が産み出したことに介入の根拠を置いている。自然科学の言語で語れる自然を倫理で考えなくてはならないのは、人間と自然の間にすでに関係が成立しており、人間の行為によって変化するからである。 現在、上記の議論を主要な論点のひとつとし、また3年間の研究の成果をまとめるべく大きな論文を執筆中である。世代間倫理の実践的な理論構築をめざした本研究は、当初、近代社会における未来記述を問うものであったが、研究の進展とともに、時間の中で過去と未来を開き、過去と未来から開かれる現在の人間の関係性を問うものへと変化した。「現在の」人間ではないものとしての未来世代への倫理と、現在の「人間」ではないものとしての自然への倫理を両軸として、環境問題の自明性を解除しつつ環境倫理のメタ条件を考えるという形で論文を作成中である。
|
Research Products
(1 results)