2005 Fiscal Year Annual Research Report
カントと両大戦間期の国際政治思想:正戦論と国際連盟をめぐるドイツ精神史
Project/Area Number |
05J10315
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大竹 弘二 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | カント / 正戦論 / 国際連盟 / ヘルマン・コーエン / ユダヤ / ナショナリズム / カール・シュミット / 広域秩序 |
Research Abstract |
本研究の目的は、20世紀前半のドイツにおけるカント主義的な戦争観と国際関係論の解明である。本年度(平成17年度)は、カント的な規範主義と正戦思想との結合、および、こうした規範的普遍主義を批判した国際秩序思想を以下の諸論文で明らかにした。 『ヘルマン・コーエンにおけるユダヤ-ドイツ的ナショナリズムと国際連盟理念』(『社会思想史研究』第30号、2006年秋、掲載予定)では、新カント派哲学者コーエンが第一次大戦時に展開した正戦論と国際連盟思想を検討し、そこに見られる世界市民主義とナショナリズムの結合の理論的背景を解明した。普遍主義的なカント法学に依拠しつつ、諸民族の同権的共存を可能にする「倫理的社会主義国家」と「諸国家連盟」を構想したコーエンであるが、その実現をユダヤ-ドイツ哲学の伝統に託したことで、ドイツの戦争を普遍的理念の実現のための正戦とみなすに至るのである。また、『実存哲学から政治へ』(『哲学・科学史論叢』第8号、2006年、所収)では、第一次大戦中に同じくナショナリズム的な正戦論を展開したユダヤ人哲学者フランツ・ローゼンツヴァイクが、戦後、むしろ普遍主義的ナショナリズムを批判するためにユダヤ哲学を練り上げ直した経緯を明らかにした。 『主権国家と普遍主義のはざまの国際法』(『UTCP研究論集』第5号、2006年、所収)では、カール・シュミットが第一次大戦後の普遍主義的国際法を批判して提起した新国際法秩序(広域秩序)について検討した。彼によれば、前者は抽象的規範に基づいて敵を道徳的に犯罪化する正戦に至るが、後者は、相互の秩序の固有性を尊重する諸広域の間の不干渉からなる国際秩序として、戦争の制限を可能にする。そうして、古典的国際法の中心概念であった主権国家の限界を認識していたシュミットは、むしろヨーロッパ的広域という理念に基づいて規範的普遍主義に抵抗しようとしたことを解明した。
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Research Products
(3 results)