2007 Fiscal Year Annual Research Report
カントと両大戦間期の国際政治思想:正戦論と国際連盟をめぐるドイツ精神史
Project/Area Number |
05J10315
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大竹 弘二 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | カール・シュミット / 戦後ドイツ / 正常性 / 合法的革命 / 新カント派 / 規範主義 / 憲法裁判所 / 非常事態論争 |
Research Abstract |
本年度の研究では、カール・シュミットにおける「正常性(Normalitaet)」の概念を検討し、彼にとってこの概念は、国内的および国際的な法秩序の安定を維持するのに決定的な役割を果たすものであることを明らかにした。シュミットはすでに、新カント派規範主義法学を批判した初期著作のなかで、法規範そのものよりも、法規範の解釈と運用の首尾一貫性を確保する制度的審級(裁判官や国家)の決定的重要性を強調していた。こうしだ審級によってこそ、法規範の恣意的な解釈と運用を許さないような、法秩序の「正常性」が維持されるというのである。この「正常性」の問題は、第一次大戦後の国際法秩序についてのシュミットの議論のなかでも重要な役割を果たしている。彼にすれば、ヴェルサイユ=ジュネーヴ国際法体制は、〈誰〉が「正常性」を打ち立てるのかという問題に無関心であることで、戦勝列強が恣意的に運用できる政治的道具と化している。新カント派規範主義であれ普遍主義的国際法であれ、法に先立つ「正常性」の問題を看過するなら、法秩序をかえって不安定にしてしまうのである。研究発表「法と正常性:カール・シュミットと戦後ドイツの非常事態論争」(東京大学グローバルCOE・UTCP公開共同研究「政治哲学研究会」2007年11月8日)では、ナチスによる「合法的革命」への反省から、秩序の「正常性」の防衛ということが第二次大戦後のドイツの喫緊の課題になり、「連邦憲法裁判所」の設置などに至ったことを示した。このようにシュミットの理論と戦後ドイツの法的・政治的問題との関連を明らかにした上で、この発表では、60、70年代の非常事態法案をめぐる論争や反体制運動を経るなかで、「正常性」という観念が徐々にある種のイデオロギーへ変質して、法に先立つ「正常性」を確保するための「措置」が、通常の法規範を浸食するまでに拡大し、日常化していった事情を究明した。
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Research Products
(1 results)