2006 Fiscal Year Annual Research Report
パラノイアと権力の諸相-シュレーバー、ヴァイニンガー、カネッティ
Project/Area Number |
05J10338
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須藤 温子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 権力 / パラノイア / 偶有性 / 群衆 / 他者 / エリアス・カネッティ / ジークムント・フロイト / 死 |
Research Abstract |
本研究は,カネッティの権力論を基軸に,近代ドイツ語圏の社会・文化的状況におけるパラノイア的思考の体系化に関わる諸問題を権力の諸相とともに解明するのを目的としている。採用第2年度目では,アイデンティティの確定を強制する社会において,個人がいかに権力志向の網から逃れる可能性を維持できるかという問いを提起し,主に文学テクストの分析を通して(1)パラノイア的な権力とその心的機構に抗する思考秩序を「偶有性」に求めてきた。他方,(2)パラノイア的な権力がいかに偶有性を抑圧・排除し,それを必然的事象へ再構築するかを指摘・批判してきた。採用第2年度目の(1)の研究成果として,須藤,論文「エリアス・カネッティの群衆-他者と偶有性への活路」,『Neue Beitrage zur Germanistik.ドイツ文学』第130号,日本独文学会(2006),SUTO : Nur ein Gast in der deutschen Sprache. -Elias Canettis "Gast"-Begriff und seine Sprachauffassung. 49. Tateshina-Symposion. (2007), (2)の研究成果としてSUTO : Originalitat als paranoide Leidenschaft. -Weltanschauung in The Copy Cat (Mohohan) von Miyuki Miyabe und Das Unheimliche von Sigmund Freud. Humboldt-Kolleg Rikkyo. (2006)があげられる。 偶有性が消褪するのが「近代」であると考えるならば,権力,ひいては権力が掌握しようとする「死」という「絶対悪」(カネッティ)は,近代全体を覆う問題となる。そこで,以上の研究成果によって開かれた問いから,今後はカネッティの思想全体を照らし出す作業を試みる。それは,須藤,「不自然な死とは何か?-死をめぐるエリアス・カネッティの思想」日本独文学会,口頭発表(2006)において示唆した,「生き残る者」が権力から解放されうる可能性への問いである。従って,採用第3年度目では,生と死をめぐるカネッティの思想と,「歓待」をめぐるJ.デリダの思想,「喪」や「メランコリー」についてのS.フロイト,J.バトラーの理論的枠組みなどとの比較が有効であると考える。
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Research Products
(1 results)